キング・オブ・アーチトップギター

キング・オブ・アーチトップと言えば、どのギターだろうか。

Gibson、Gretsch、Epiphone。Strombergもあるし、D’AngelicoやD’Aquistoを挙げる人もいるだろう。MonteleoneやBenedettoまで入れると、なかなか収拾がつかない。

そもそも、何をもってキングとするのか。

時計で言えば、今回考えたいのはRolexである。Patek Philippeではないし、Philippe Dufourでもない。

精緻な仕事に息をのみ、作者の美意識にひれ伏す。そういう頂点の話は、もちろんある。Monteleoneや、Bob Benedetto本人の製作に惹かれる気持ちは、そちらにも通じるだろう。

ただ、今回考えたいのは、歴史があり、演奏家に使われ、他のギターを語る時にも比較の相手になるようなものだ。

そうなると、やはりGibsonか。

随分と普通の答えになってしまうが、まずは他の候補も見ておこう。

戦前のEpiphoneは、今のブランドイメージだけで考えてはいけない。Gibsonと大型アーチトップを競っていたメーカーであり、1934年のSuper 400に対して、翌年にはさらに大きなEmperorを出している。Epiphoneの歴史資料

Emperor、皇帝である。Super 400に真っ向から殴り合いを挑んできたわけで、名前からして遠慮がない。この頃のカタログを見ていると、Gibsonだけを特別扱いするわけにはいかなくなる。

Gretschならホワイトファルコンだろう。

白い大きなボディに金色の装飾。知らない人が見ても、高そうなギターだという事は伝わると思う。1954年のショーモデルが翌年には製品化されたという経緯からも、見せる楽器としての魅力がよく分かる。Gretsch公式の解説

Strombergとなると、ビッグバンドの中で生音をどう通すかという話になる。ノンカッタウェイのMaster 400は胴幅19インチ。スミソニアンの解説でも、ホーンに埋もれない音を求める奏者に応えた楽器として紹介されている。スミソニアン所蔵品解説

構造も独特で、1940年頃以降のMaster 400には、削り出したトップの裏に一本のブレースを斜めに渡したものが見られる。よく見るパラレルやXとは違う、シングル・ブレーシングである。大きな胴だけでなく、この構造も含めてStrombergを見ておきたい。George Gruhnによる現物解説

この時代のリズムギターを中心に考えるなら、Strombergを選ぶ理由は十分にある。

D’AngelicoやD’Aquistoは、製作者本人の仕事を見ていく事になる。どの年代に、誰のために、どんな仕様で作られたものか。そこまで含めて選びたくなるギターである。

ところが、D’Angelicoを調べていてもL-5が出てくる。

メトロポリタン美術館が所蔵する1932年製、シリアル番号「2」のD’Angelicoについて、同館は初期の作品がGibson L-5を範にしていたと説明している。所蔵品解説

後のD’Angelicoを単なる模倣と言いたいわけではない。あれだけの製作者が自身のギターを作り始める時にも、L-5が手本として存在していた。その事が気になるのである。

Gibsonを選ぶ理由を探しているつもりが、だんだんL-5を選ぶ理由になってきた。

1922年に登場したL-5は、fホールを備え、後のアーチトップの形を考えるうえで重要なモデルとなった。それ以前にもアーチトップはあったので、最初のアーチトップと呼ぶのは正確ではないが、始祖としての貫禄はこの辺りにあるのだろう。メトロポリタン美術館のL-5解説

その後は大型化、カッタウェイの採用を経て、1951年にはL-5CESへと展開する。古い名器として過去の資料にだけ出てくるギターではない。電気で音を出す時代にも、L-5の名前が続いている。Gibson提供の歴史年表

Gibsonの中で選ぶなら、ES-175も外せない。

演奏家に使われてきた実績や、フルアコの定番という点を重く見れば、かなり有力だと思う。高価なモデルほど偉いという話にするつもりもない。GibsonのES-175解説

それでも、最後まで迷うのはL-5とSuper 400である。

L-5には、あのフラワーポットがある。私も好きなインレイで、歴史の話を抜きにしても、あのヘッドには惹かれる。もともとはF-5、さらにそれ以前のF-4というGibsonのマンドリンに使われていた意匠だそうだ。そう聞くと、古いマンドリンのヘッドまで見比べたくなる。(フラワーポットの変遷)

ただ、二本を並べた時、私にはSuper 400の方が圧倒的に立派に見える。

18インチのボディに、ヘッドのスプリット・ダイヤモンド、指板のスプリット・ブロック。大きいだけでも、飾りが多いだけでも、こうはならないと思う。アーチトップに詳しくない人にも、随分と立派なギターだという事は伝わるのではないだろうか。

1960年のカタログでも、Super 400CESはL-5CESより胴幅が大きく、価格も高い。私が勝手に格上だと思っているだけではなく、Gibsonもそういう位置に置いていた。(1960年Gibsonカタログ)

これでSuper 400に決まり、としたいところだが、L-5を調べると、まだ気になる事がある。派生モデルの多さである。

George Gobelのために作られた薄胴のL-5CT。ピックアップを一基にしたWes Montgomeryモデル。Lee Ritenourのモデルでは、胴幅が15.5インチにまで小さくなっている。奏者ごとに欲しい仕様は違っていても、まずL-5があって、そこから変更しているところが面白い。(1962年カタログ、2004年カタログ)

さらに、ソリッドボディのL-5Sもあれば、装飾を簡略化したL-5 Studioもある。Studioはドット・インレイに単層のバインディングという仕様だが、トップには削り出しのスプルースを使っている。簡素な外観だけで、入門用と考えてしまうのも違うだろう。(1975年カタログ、L-5 Studio仕様表)

ソリッドのL-5Sまで一緒に数えるわけにはいかないが、L-5の名前で随分いろいろなギターを作ったものだと思う。

では、Super 400はずっと同じだったのかと言えば、そうでもない。1939年のカッタウェイ仕様の追加、1951年のCES化はL-5と共通する。その後も、ピックアップが変わり、カッタウェイは丸い形から尖った形になって、また丸い形に戻っている。(Gibson歴史年表、Super 400CESの仕様変遷)

尖ったカッタウェイへの変更にはKenny Burrellの意向が影響したと、Thomas A. Van HooseはTed McCartyから聞いた話として紹介している。奏者の注文が仕様に反映された例も、L-5だけではない。

それでも、Super 400と聞けば、私の頭にはあの大きく豪華なギターが浮かぶ。年代による違いはあっても、L-5SやL-5 Studioを見た時ほど、印象が変わる事はない。私がSuper 400を変わらないギターだと感じるのは、そういうところなのだろう。

ここで最高級モデルを選ぶ話にすると、サイテーションやカラマズー・アワードも出てくる。製作の話を読めば、装飾だけでなく、楽器としても手間のかかったものだと分かる。ただ、それを比べ始めると、冒頭の個人製作家たちも候補に戻ってくる。(サイテーション、カラマズー・アワードの製作談)

今回は、歴史があり、演奏家に使われ、他のギターを語る時にも比較の相手になるもの、と考えていた。

この条件なら、やはりL-5なのだと思う。初期のD’Angelicoが手本にし、その後も多くの奏者が使い、自分に合う仕様を求めてきた。生音の時代からエレクトリックまで話が続くのも強い。Gibsonの価格表でSuper 400が上にあるからといって、これを追い越せるわけではない。

ここまで考えて、L-5という答えには納得した。

ただ、二本を並べて「どちらがキングか」と聞かれたら、私はやはりSuper 400を指してしまう。あの姿を見ると、他を選ぶ気になれないのである。

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