La Veneziaの立ち位置|Benedettoのラインナップから、その役割を考える


↑画像はLa VeneziaではなくBenedetto 16″ Customです。

La Veneziaは、Benedettoの上位モデルである。

そのこと自体には、あまり議論の余地はない。

1995年の価格を見ると、Manhattanが9,000ドル、Fratelloが9,500ドルであったのに対し、La Veneziaは12,000ドル。さらに上にはLimeliteの22,500ドル、Cremonaの35,000ドルが置かれていた。

1997年にも、ManhattanとFratelloが17,500ドル、La Veneziaが20,000ドル、Limeliteが35,000ドル、Cremonaが50,000ドルという順である。[1]

La Veneziaは、CremonaやLimeliteとは価格差がありながらも、ManhattanやFratelloより明確に上に置かれていたモデルだった。

しかし、価格だけを見て「Manhattanの上、Cremonaの下」と説明してしまうと、このモデルの面白さは見えてこない。

La Veneziaには、ほかのモデルとは少し違う役割が与えられていたように思う。

目次

上位モデルとして選ばれた材

外観が簡素だからといって、La Veneziaが簡略化されたモデルだったわけではない。

『Making an Archtop Guitar』のカラーページに掲載された各モデルの仕様を見ると、材の選び方は一様ではない。Cremona、Limelite、La Veneziaと、ManhattanやFratelloでは、明らかに書き方が違う。[2]

モデル トップ/バック 外装など
Cremona the finest, select, aged European cello woods
handcarved and finely tuned
mother-of-pearl / abalone
exotic burl veneer
super fine-lined binding
Limelite very select, aged, close-grained spruce
very select, aged, highly flamed maple
split mother-of-pearl inlays
delicate inlays
super fine-lined binding
La Venezia very select, aged, close-grained European spruce
very select, aged, highly flamed European maple
No body binding
Chamfered “F” holes
No fingerrest
No pickup
Fratello select, aged spruce
select, aged flamed maple
large mother-of-pearl inlays
delicate inlays
traditional black/white binding
Manhattan select, aged spruce
select, aged flamed maple
neo-classic fingerboard
traditional black/white binding

念のため付け加えておくが、目の細かい材だから音が良い、という話をしたいのではない。木目と音の優劣を単純に結び付けるつもりもない。

ManhattanとFratelloは、トップが「select, aged spruce」、バックが「select, aged flamed maple」。ネックは「matching flamed maple」で、両者の書き方はほぼ同じである。

LimeliteとLa Veneziaは、トップに「very select」「aged」「close-grained」、バックには「very select」「aged」「highly flamed」とある。La Veneziaではさらに、トップとバックのどちらにもEuropeanと記されている。

そしてCremonaは、「the finest, select, aged European cello woods」。トップとバックを手で削り、細かく調整したことまで記されている。

これだけで工房内に厳密な三段階の等級があったとまでは言えない。しかし同じ本の中で、同じ形で並べられた仕様である。たまたま書き方が変わっただけと見るのは難しい。

Benedettoは少なくともこの本の刊行時、モデルの違いを装飾だけでなく、材の選別にも置いていた。

なかでも面白いのは、LimeliteとLa Veneziaである。

どちらも「very select」の材を使う。その一方でLimeliteには、指板、ピックガード、テールピースのインレイと、全体を囲む細いバインディングがある。La Veneziaは反対に、「No body binding」「No fingerrest」「No pickup」と続く。

ただし、これは注文時にも変更できないという意味ではなかったようだ。1995年製の#36495には、ログブック上に「S6」と記されている。S-6はフィンガーレストに取り付けるフローティング・ピックアップなので、この個体にはフィンガーレストも備わっていたはずである。
「No fingerrest」「No pickup」はLa Veneziaの基本仕様であり、注文に応じてピックアップ付きでも製作されていたことになる。

材の選び方は近い。それなのに、見せ方は正反対なのである。

La Veneziaは、安くするために飾りを減らしたギターではない。

選ぶべきものは選び、そのうえで余計なものを取り去っている。

まず、この点は押さえておきたい。

高級なのに、豪華にならない

伝統的な高級アーチトップでは、価格が上がるほど何かが増えていく。

バインディングが複雑になり、インレイが増え、ヘッドにも装飾が加わる。Gibsonの上位モデルなどは、その違いが非常に分かりやすい。BenedettoのCremonaも、基本的にはこちら側にいる。

La Veneziaは違う。

バインディングを持たず、指板の装飾も抑えられている。高価なのに、外から見えるものは増えるどころか減っていく。

同書のLa Veneziaには「No body binding」「No fingerrest」「No pickup」と並ぶ。対するManhattanは、伝統的な黒白のバインディングを全体に施し、細身のフィンガーレストを備える。

より選んだ材を使いながら、外から見えるものは少ない。La Veneziaの変わったところが、この二つの仕様欄だけでもよく分かる。

この逆転した関係が、La Veneziaを単なる価格序列だけでは説明しにくくしている。

1982年以降のBenedetto

Benedetto公式アーカイブは、1982年をひとつの転換点としている。

Bob Benedettoはこの頃から、インレイやバインディングなどの不要な装飾を取り去り、アーチトップの音そのものへ意識を向けるようになった。そして公式は、その「less is more」という考えからLa Venezia、La Cremona Azzurra、Renaissance Seriesが生まれたと説明している。[3]

この1982年については、以前の「Manhattan以前のBenedetto」でも取り上げた。La Veneziaの成り立ちを考えるなら、見過ごせない記述である。

ただし、ここからLa VeneziaとRenaissance Seriesを一本の流れとして直結するのは少し早いと思う。公式が述べているのは、これらが同じ考えから生まれたということであって、La Veneziaを経由してRenaissance Seriesへ進んだとは書かれていない。

両者には共通するところがある。しかし今のところは、同じところから別々に伸びたものくらいに考えておく方がよいだろう。Renaissance Seriesについては、こちらの記事で改めて追っている。

ウッドバインディングで止まらなかった

もちろん、装飾を減らしていく動きそのものが、Benedettoだけのものだったわけではない。

Jimmy D’Aquistoは1980年代半ば以降、従来のアーチトップから金属やプラスチックを減らし、木製の部品を積極的に使うようになっていった。

1989年にJim Hallのために作られたAvant Gardeについても、メトロポリタン美術館は、従来ボディや指板、ヘッドに使われていたセルロイド製バインディングを廃したことを特徴として挙げている。[4]

ただし、これは外周の縁取りまで消したという意味ではない。Avant Gardeのボディ外周には、木による見切りが残されている。

D’Aquistoが進めたのは、樹脂を木へ、金属を木へと置き換え、過剰な装飾を減らしながら、できるだけ木でまとめる方向だった。

やがて手工アーチトップの世界では、ウッドバインディングも珍しいものではなくなっていく。

ここでLa Veneziaが少し違って見えてくる。

樹脂のバインディングを使いたくないのであれば、木に替えればよい。実際、多くの製作家がそうした。

ところがLa Veneziaは、そこでもう一歩進んでいる。

ウッドバインディングにするのではなく、バインディングそのものをなくした。

ただし、バインディングがないから作る手間も減る、というわけではない。

友人がBuscarinoに16インチのArtisan Customをオーダーした時、この仕様はむしろ手間がかかると、John Buscarino本人からはっきり言われている。継ぎ目を隠すものがないため、トップとサイドの合わせも、外周の仕上がりも、そのまま表に出る。

少なくともこのArtisan 16″ Customについては、ノーバインディングは工程を省くための仕様ではなかった。省いたように見えて、作る側には逃げ場がない。

2010年の公式価格表でも、La Veneziaについてはわざわざ「No binding(violin-like)」と明記されている。なくても済むから省いた、という扱いではなかったことが分かる。[5]

何を足すかではなく、どこまで取り去ってもBenedettoであり続けられるのか。

2006 Benedetto 16″ Customのトップ外周。トップとサイドの間に別材の線はなく、スプルースの縁がそのまま見えている。

 

写真はLa Veneziaではなく、筆者がBob本人に注文した2006 Benedetto 16″ Customである。ここで見たいのは、モデル固有の意匠ではなく、トップ外周の処理だ。

白や黒の線がない、というだけではない。トップとサイドの間を別の材料で区切らないため、アーチの膨らみがそのまま側面へ落ちていく。輪郭を縁取るものがないぶん、ボディが一続きに見える。

単に部材をひとつ省いたのではない。この見え方まで含めて、La Veneziaなのだと思う。

そこまで取り去る必要があったのか

ただし筆者は、この部分についてBenedettoに全面的には賛成していない。

バインディングは飾りだけではない。トップやバックの外周を保護するという、非常に実際的な役目がある。

特にアーチトップのトップには、スプルースをはじめとする比較的柔らかい針葉樹が使われる。ただでさえ傷や凹みを受けやすい材である。ましてトップの外周は、ケースへの出し入れや演奏中の取り扱いなどで、何かに当てる可能性のある場所でもある。

むしろ保護したくなる場所なのに、La Veneziaはそこからバインディングをなくしてしまった。

ここには、このモデルの大胆さと同時に、少し危ういところもあると思う。

 

Il Fiorentinoのバック。外周にバインディングはなく、バック材が縁まで続いている。

 

筆者の2006年製Benedetto 16インチ・カスタムのサウンドホール付近と、バインディングのないトップ外周を横から見たところ
2006 Benedetto 16″ Customのサウンドホールとトップ外周。縁を保護する別材は使われていない。

 

ウッドバインディングという方法もあった。それならば木以外の素材を増やさずに、外周を守ることもできた。

しかしLa Veneziaは、それすら選ばなかった。

ちなみに筆者自身、バインディングを持たないBenedettoをBob本人に注文しているので、あまり偉そうなことを言えた立場でもない。私の2006 Benedetto 16″ Customにも、バインディングはない。

それでも今の私は、ギターにはバインディングがあった方がよいと考えている。

もっとも、「楽器は飾っておくものではない」などと言い切るつもりもない。このサイトでは昔から、楽器は弾くものであると同時に、眺め、愛でるものでもあるという立場をかなり堂々と取ってきた。筆者自身、その実践者である。

ただ一般論として、多くの人にとって楽器は、ケースから出し、抱え、演奏し、またしまうものである。仕事で使うなら、そこに移動も加わる。

その意味では、外周を守るものを取り去ることには、やはり実用上の代償がある。

La Veneziaは、その代償を払ってでも、あの姿を選んだ。

だからこそ美しいとも言える。しかし、その選択を無条件に正しいとは思わない。

今では、それほど珍しく見えなくなった

現在の目でLa Veneziaを見る時、もうひとつ忘れてはいけないことがある。

あのシームレスな外観そのものが、今ではそれほど珍しく見えなくなっていることである。

Bob Benedettoは『Making an Archtop Guitar』を出版し、さらに製作映像を通じて、自らの作り方を驚くほど広く公開した。それ以降、Benedettoの影響を感じさせるアーチトップは世界中に増えた。

Eastmanのように、個人製作家とは異なる規模で複数の職人が製作するメーカーにも、Benedetto以降のアーチトップを思わせる姿は少なくない。

ただ、筆者がLa Veneziaのシームレスな姿に以前ほど特別感を覚えなくなった最大の理由は、おそらくDale Ungerのせいである。

Ungerは1993年からBob Benedettoのもとで製作を学び、数年間にわたって一緒にアーチトップを作った。その後は、そこで学んだことに自分自身の考えを加え、American Archtopへ進んでいる。[6]

American Legendには、実際にボディもネックもバインディングを持たない個体が存在する。2004年の個体についても、販売資料にはその接合部が「entirely free of binding」と明記されている。[7]

Bobのすぐ近くで製作を学んだ人間が、その後こうしたギターを作り続けた。それを長年見ていれば、La Veneziaの姿に対する驚きが薄れてしまうのも無理はない。少なくとも筆者の場合はそうである。

これは、La Veneziaの価値が薄れたという意味ではない。

むしろ後に似た姿のギターが増えたことで、登場した時の異質さが見えにくくなっているのだと思う。

La Veneziaの立ち位置

改めてBenedettoのラインナップに戻ってみる。

Manhattanは、Benedettoを代表する17インチ・アーチトップとして長く中心に置かれてきた。Cremonaは、材、装飾、仕立てを含め、持てるものを惜しまず投入する方向にある。

では、La Veneziaは何なのか。

価格はManhattanやFratelloより上。材もより厳しく選ばれる。それなのに、外観は豪華になるどころか、逆に余計なものが消えていく。

そして最後には、本来なら木で残すこともできたはずのバインディングまで取り去ってしまった。

そう考えるとLa Veneziaは、Benedettoの中でも少し特殊な問いから生まれたモデルだったように思えてくる。

Cremonaのように、持てるものを尽くしてBenedettoを示す方法とは正反対である。

削って、削って、それでもなお残るもの。

アーチの形。材の選び方。木の見せ方。そして全体の姿。

それだけでBenedettoだと分からせることができるのか。

La Veneziaは、その問いに一本のギターで答えようとしたモデルだったのではないだろうか。

筆者は、その試みを非常に面白いと思う。同時に、バインディングまで取り去ったことが楽器として最善だったのかについては、今も少し疑っている。

その疑問まで含めて考えた時、La Veneziaは単なる「Benedettoの上位機種」ではなくなる。

それは、Benedettoというギターをどこまで削ることができるのかを試した、もうひとつの頂点だったのかもしれない。

参考資料

  1. 「Benedetto Guitar 価格変遷」、Archtop Archive。1995年および1997年の各モデル価格。
  2. Robert Benedetto, Making an Archtop Guitar, 1994. カラーページに掲載されたCremona、Limelite、La Venezia、Fratello、Manhattanの仕様。
  3. “Bob Benedetto Bio”, Benedetto Guitars Archives. 1982年、“less is more”と各モデルの関係。
  4. “Archtop Guitar, Avant Garde model, 1989”, The Metropolitan Museum of Art.
  5. Benedetto Models Specifications & MSRP, January 2010.
  6. “About Us”, American Archtop Guitars. Dale Ungerの経歴。
  7. “2004 Dale Unger American Legend”, archtop.com.
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