ARCHTOP ARCHIVEでは、この7年間を「Fender / Guild期」と呼んでいる。Bob Benedetto本人の仕事、二つの商品群、NashvilleからCoronaへ移る製作体制。その重なりを、当時の資料から整理する。
はじめに
1999年から2006年にかけてのBenedettoについて、以前にも何度か触れてきた。
90年代のBob Benedettoによる製作と、2006年以降のSavannah。その間に位置するこの7年間は、Benedettoの歴史の中でも特に分かりにくい時代である。
一般には「Fender時代」あるいは「Guild時代」と呼ばれることが多い。ARCHTOP ARCHIVEでは、両者が重なっていたことを踏まえて「Fender / Guild期」と呼んでいる。ただし、この呼び名だけでも、この時期に誰が、どこで、どのような立場からギターを作っていたのかまでは説明できない。
ここには、FMICのCustom Shopで製作されたBenedettoブランドのギターがあり、Guildの名を持つBenedetto Signatureモデルがあり、さらにBob Benedetto本人による特別製作やプロトタイプも存在した。製作拠点も一つではなく、公式のシリアル案内では、2000〜2002年のN designationをNashville、2002〜2006年の連番個体をCoronaとしている。
したがって、この7年間を「Bob個人の仕事が企業の仕事に置き換わった」と一行で片付けることはできない。
重要なのは、Bob Benedettoという一人の製作者の美学が、企業という新しい環境の中でどのように展開されたのかという点である。この期間を、個人製作者の活動と企業によるブランド展開が交差した時代として整理する。
BenedettoをめぐるGuildとFenderの関係
1999年の話へ進む前に、GuildとFenderの関係を整理しておきたい。ここを飛ばすと、まったく別の二社が突然Benedettoを介してつながったように見えてしまうからである。
Fender Musical Instruments Corporation(以下FMIC)は、1995年にGuildを取得した。つまり、Bob Benedettoが1999年にFMICと契約した時点で、GuildはすでにFMICのブランド群に入っていたのである。
この順序を押さえると、1999年以降に「Benedetto Models」と「Guild Benedetto Signature」が並んで現れる理由も見えやすくなる。FMICという共通の企業基盤の中で、BenedettoブランドとGuildブランド、それぞれの製品群が展開されたのである。
ただし、1999年以降のBenedettoが、そのままGuild製品になったわけではない。この二つの流れを分けて考えることが、この時代を理解する最初の一歩になる。
1999年、Bob BenedettoとFMIC
1999年、Bob BenedettoはFMICとライセンス契約を結んだ。ここで注意したいのは、FenderがBenedetto Guitarsを所有したわけではないという点である。Benedetto公式の説明によれば、契約はFenderがCustom ShopでBenedettoギターを手作業で製作することを認めるライセンスであり、Bobは製作期間中に定期的な訪問と検査を行った。出荷前には各個体を検査し、署名したとも説明されている。
この関わり方は、当時のカタログからも確認できる。2000年版では、GuildがBobを工場へ迎え、職人たちと協働しながらArtist AwardとX700 Stuartを本人の指揮のもとで改良したと説明している。Benedettoブランドについても、NashvilleのGuild Custom Shopの職人がBobの設計を製作していたと明記されている。
さらにBob本人の言葉として、Custom ShopのBenedettoと自分の工房で製作したギターに違いはなく、自ら訓練を行い、自分と同じ方法で製作・セットアップされている、という趣旨の発言が掲載されている。これは当時の販促表現であることを考慮する必要があるが、少なくともBobが名前だけを貸したという説明とは一致しない。
この体制を、90年代までと同じ意味で「Bob本人製」と呼ぶことはできない。一方で、Bobの名前だけを借りた、本人不在の生産だったと考えるのも違う。設計者・監修者としてのBobと、Custom Shopの職人たち。その両方が一つの楽器に関わる体制だった。
同時期のBob本人の仕事も、すべてがこの製造ラインに吸収されたわけではない。公式アーカイブには、本人が個別に製作したプロトタイプが残されている。Bobの活動は一括して「個人工房」とせず、確認できる範囲で特別製作、プロトタイプ、one-of-a-kindモデル等と捉える必要がある。
交差した時代
1999〜2006年のブランド関係と製作体制を整理すると、次のようになる。

2002年、二つのBenedetto
この時代の構造を文章以上にはっきり示してくれるのが、当時のGuildカタログと2002年7月の価格資料である。そこでは、Bobの名前に関係するギターが一つにまとめられず、二つのカテゴリーに分けて掲載されている。
Benedetto Models
- Manhattan / Manhattan 7
- Fratello
- La Venezia
- Benny / Benny 7
Guild Benedetto Signature
- Artist Award
- Stuart X-700
前者はBenedettoブランドのモデル群。後者はGuildブランドの中で展開されたSignatureモデル群である。同じ資料の中で見出しが分かれている。これは、後世の私たちが便宜的に分けたのではなく、当時のメーカー自身が両者を別の商品群として示していたことを意味する。
この区分は一時的なものではない。2000年版では「Guild Benedetto」のArtist Award/X700 Stuartと、「Benedetto」のManhattan/Fratello/La Venezia/Bambino/Bennyが別ページに掲載されている。2001年版でも、Artist Award/X700 Stuartと、Benedettoブランドのモデル群は分けて紹介されている。
2003年版では、Guild側のArtist AwardはJohnny Smith Awardへ名称が変わり、X700 StuartとともにGuild Custom Shopの流れで掲載される。一方、Manhattan、Manhattan 7、Fratello、La Venezia、Benny、Benny 7は、Benedettoのロゴを掲げた独自モデルとして続いている。2000年から2003年までのカタログを並べると、二つの流れが継続していたことが確認できる。
したがって、「Guild時代のBenedetto」という言い方だけでは、ManhattanやLa Veneziaと、Guild Artist AwardやStuart X-700との違いを隠してしまう。Bob Benedettoの名が関わる点は共通していても、ブランド上の出自は同じではない。
Benedetto製作はNashvilleからCoronaへ
では、Benedettoブランドのギターは、どこで作られていたのか。
Benedetto公式のシリアル案内では、N designationは2000〜2002年にFender Nashville Custom Shopで、Bobの指揮下に製作されたと説明されている。例としてN14001は「40番目のギター、2001年製」と読まれる。
一方、2002〜2006年の連番のみのシリアルは、California州CoronaのFender Custom Shopで製作されたとされる。この連番自体には製作年を示す数字が含まれていないため、正確な年の確認にはメーカー記録や個体資料が必要になる。
ここで重要なのは、「2002年のある一日を境に、関係するすべての製作が一斉に移った」とまでは資料が語っていないことである。公式案内は個体識別のための一般的な区分であり、Guild側の製品群まで含めた全工程の移転日を示すものではない。本稿では、NashvilleからCoronaへの流れをBenedettoブランドの主要な製作体制の変化として捉えつつ、個体ごとの確認余地を残しておきたい。
N10400 Bambino Eliteの意味
シリアルだけで製作背景を決められないことを示す好例が、Bambino Elite prototype、Serial #N10400である。
Benedetto公式の商品アーカイブは、この個体を2000年頃、Bob BenedettoがEast Stroudsburgの工房で個別に手作りしたプロトタイプと説明している。Nashville Custom Shopのための基準例として作られたためN designationを持つが、このモデルがFenderで製品化されることはなく、2006年のSavannahでラインナップへ加えられたという。
つまりN10400は、Nの文字がただちに「Nashvilleの製造ラインで作られた個体」を意味するとは限らないことを示す。シリアルは重要な手がかりだが、プロトタイプ、個別製作、来歴資料と組み合わせて読まなければならない。
シリアルナンバーは答えそのものではない。個体の背景へ入るための入口である。
Benedetto製作とStephen Stern
Corona期のFender Custom Shopを語る際、Stephen Sternの名は無視できない。
SternがFender Custom Shopに入ったのは1993年である。Fenderの公式記事によれば、彼は1995年にJimmy D’Aquistoが亡くなるまで、Custom ShopでD’Aquistoと直接仕事をしていた。つまりSternには、Benedetto以前から、Fenderの中でD’Aquistoギターの製作に関わってきた経験があった。
その後、SternはBenedettoギターの製作にも携わる。Fenderは、当時のCustom Shopでアーチトップ/ホローボディ製作の十分な経験を持つ職人としてSternとChris Flemingの二人を挙げている。また、2003年にGretsch Custom Shopの企画が動き始めた頃、SternはBenedettoの仕事で多忙だったとも記している。
この経歴を見ると、Sternの存在は、Corona期のBenedettoが突然始まった単独の仕事ではなく、Fender Custom Shopに蓄積されていたD’AquistoからBenedettoへと続くアーチトップ製作の流れの中にあったことを示している。
ただし、これを根拠に、D’Aquisto期やCorona期の全個体をStern一人の製作としたり、個別資料のない楽器を彼の作と断定したりすることはできない。本稿で確認できるのは、Fender Custom ShopでD’Aquistoとの仕事を経験し、その後Benedetto製作にも関与した重要なアーチトップ職人の一人だったという点までである。
2006年、BenedettoはSavannahへ
1999年に始まったライセンス契約は、2006年に終了した。Benedetto公式によれば、契約は良好な関係のうちに終わり、Fender製の在庫は2006年半ばまでに販売された。そして同年、Bob BenedettoはHoward PaulとともにGeorgia州Savannahで自社の製作体制を立ち上げた。
これを「企業生産が終わり、個人工房へ戻った」と表現するのも適切ではない。公式自身がSavannahの拠点を“factory”と表現しており、そこではBenedetto Guitarsという組織として製作が続いていく。1999〜2006年に培われた、設計思想を組織の中で形にする経験は、断絶するのではなく次の体制へ接続したと見る方が自然である。
16″Customに見る境界線
ここで、この時代の境界を示す一例として、以前紹介した16″Customに触れたい。所有する一本を紹介したいからではなく、この個体の来歴が、今回のテーマをとても分かりやすく見せてくれるからである。
このギターは2003年に依頼し、2006年に完成した。シリアルナンバーは、Bob本人が製作した従来の個体に見られる形式を持つ。一方、内部には、次のSavannah期と結びつくGP(Golden Period)ラベルが貼られている。当時Bob本人からは、新たにスタートさせる工房でone-of-a-kindの特別なモデルにのみ用いるラベルだとの説明を受けた。
正直に言えば、完成した当時の私は少し複雑な気持ちだった。特別な一本であるなら、次の時代を示すラベルよりも、Bob本人によるサインや記名のような、もっと直接的な証の方が似合うのではないか。少し「ありがた迷惑」に近い感覚だったのである。そして、その気持ちは今でも完全になくなったわけではない。
しかし、いま改めてこの時代を調べてみると、GPラベルは別の意味を持って見えてくる。これはシリアルとラベルのどちらかが誤っているという話ではない。むしろ、一つの注文がFMICとの契約期間をまたぎ、完成時には新しいSavannahの体制が始まろうとしていたことを、一つの個体の中に残している。
シリアルナンバーはそれまでの製作史との連続を示し、ラベルは次の時代への移行を示している。
もちろん、一個体の来歴をそのまま同時期の全Benedettoへ一般化することはできない。しかし、このギターは「Fender / Guild期」「Savannah期」といった後世の区分が、実際の注文や製作の現場では必ずしも鋭い境界線ではなかったことを示す実例になる。
まとめ
1999〜2006年のBenedettoを「誰が作ったのか」という問いに、一人の名前だけで答えることはできない。
FMICが1995年に取得していたGuildでは、Guild Benedetto Signatureが展開された。1999年のライセンス契約後、BenedettoブランドのモデルはBobの指揮・検査のもと、まずNashville、続いてCoronaのFender Custom Shopで手作業により製作された。その一方には、N10400のようなBob本人によるプロトタイプや特別製作も存在した。CoronaではStephen Sternをはじめ、アーチトップ製作経験を持つ職人も関わった。そして2006年、製作はHoward Paulとともに立ち上げたSavannahの新体制へ続いていく。
この7年間は、単純な「個人から企業へ」の物語ではない。Bob Benedetto個人の設計と仕事、企業のCustom Shopによる製造、GuildとBenedettoという二つの商品群、そして次のSavannah体制が重なった時代である。
だからこそ、この期間の一本を理解するには、年式や通称だけでなく、ブランド名、シリアル、ラベル、製作地、仕様、注文時期、そして残された記録を合わせて見る必要がある。
シリアルだけでは分からない。ラベルだけでも分からない。「Fender / Guild期」という名前だけでも分からない。
一本のギターを理解するには、その背景まで確認する必要がある。それが、1999年から2006年のBenedettoを正確に捉えることにつながる。
参考資料
- Benedetto Guitars, “Customer Care & Support” — ライセンス期間、Bobの監修・検査、Nashville/Coronaのシリアル区分、Savannah移行。
- Benedetto Guitars, “Violinburst Bambino Elite, Serial #N10400” — N10400の製作地、プロトタイプとしての来歴。
- Fender Musical Instruments Corporation, “Fender Musical Instruments Corporation Announces Intent to Sell Guild Brand to Cordoba Music Group” — Guildが1995年にFMIC傘下へ入ったことの確認。
- Fender, “The Gretsch Custom Shop” — Stephen Sternのアーチトップ製作経験とBenedetto製作への関与。
- Guild 2000 Catalog, pp.5–9 — Guild BenedettoとBenedettoブランドの区分、Bobの指揮・訓練、Nashville Custom Shopの記述。
- Guild 2001 Catalog / Fender Frontline, pp.169–173 — Artist Award/X700 StuartとBenedettoブランド各モデルの掲載区分。
- Guild 2003 Catalog, pp.34–41 — Johnny Smith Award、X700 Stuart、Manhattan、Fratello、La Venezia、Benny各モデルの掲載。
- Guild / Benedetto July 2002 price material(筆者所蔵資料)— 2002年7月時点の商品構成。
- Robert Benedetto, Making an Archtop Guitar, Centerstream Publishing.
- The Blue Guitar Book(Scott ChineryのBlue Guitar Collectionおよび製作者資料)。
- 筆者所蔵16インチCustomの注文・完成時資料、シリアルおよびGPラベル。
※販売店の商品説明やブログは、歴史的事実を支える根拠として使用していない。筆者所蔵個体に関する記述は個体資料と本人の記憶に基づくため、メーカー公式の一般情報とは分けて記載した。

コメント