比べるということ

色々あって、今、壁には二本だけが掛けてある。

最近、壁を見ても辻四郎とHeritageしか見えない。

しかしながら、fホール、カッタウェイ付きアーチトップ率100%というのは、揃っていて気持ちが良い。

こうして二本が並んでいると、ついつい比べてしまう。

色や形、全体の佇まい、弾き心地。

そして、音色(ねいろ)。

目次

比べることなかれ

私には二人の息子がいる。

教育において、それぞれを比べることなかれ、と先人から口うるさく教えられてきた。

その甲斐あってか、これまで、それぞれの「ここは私に似てしまったな」「ここは家内に似てくれてよかったな」などと思うことはあっても、二人の能力そのものを比べることはなかったように思う。

さて、ギターである。

このArchtop Archiveでは、これまで音について語ることを極力避けてきた。

様々な場において、政治や宗教を語らないようにしてきた感覚に少し近い。

音の好みなど人それぞれである。弾き手も違えば、弦も違う。ピックも違えば、部屋も違う。

そこへ私個人の「良い」「悪い」を持ち込んでも仕方がない。

そんなふうに考えてきた。

しかし最近、この場でいつまでもフラットなふりをし続けていていいのだろうか、と思うことがある。

いや、そう思うことが随分と増えてきた。

このArchtop Archiveもリニューアルしたことだし、ちょうどいい。

少しくらい、私自身の尺度が見えてもいいのではないかと思う。

二本を、改めて弾く

さて、この二本。

どちらも随分と弾いてきた。

特に最近は、改造と改良を終えて戻ってきた辻四郎GEM-Bを手に取る時間が増えた。

以前からよく知っているつもりのギターだったが、手を入れたことで、むしろその性格が以前よりはっきりと見えるようになった。

そして改めて、この二本を弾き比べている。

ハッキリ言って、この二本、まったく違う。

まあ、当たり前である。

面白いのは、スペックだけを眺めると、実はそれほど遠い二本ではないことだ。

サイズこそ違うものの、どちらもフローティング・ピックアップを備えたオール単板のアーチトップである。

木材やブレーシングについても、この音の違いを一発で説明してしまえるほど決定的な差があるわけではない。

ところが、弾けばまるで違う。

辻四郎を弾いたあとにHeritage Sweet 16を弾く。

これが実に良い。

毎度のようにHeritageの官能に酔う。

単独で弾いてももちろん良いのだが、辻四郎を弾いた直後がいちばんよく分かる。

「ああ、このギターはこんなにも色気があったのか」

と、毎回思う。

逆に言えば、Heritageを弾くことで辻四郎の性格もまた、よりはっきりと見えてくる。

音を言葉にする

では、どんな音なのか。

これが難しい。

ギターの音を言葉で表現しようとすると、途端に「豊かな中低域」だの「鈴鳴りの高音」だの、「枯れたヴィンテージトーン」だのという、どこかで百回くらい読んだ言葉が並び始める。

便利ではある。海老の食感”プリプリ”ばりに。

しかし、それではこの二本の違いをうまく説明できない。

そこで私なりに考えた。

私の辻四郎GEM-Bは、

乾燥ワカメ

である。

対してHeritage Sweet 16は、

たくあん

である。

何を言っているのかと思われるかもしれない。

私もそう思う。

しかし、今のところこれ以上にしっくりくる表現がない。

GEM-Bはバリッと乾いている

GEM-Bを弾いていると、弦が分厚いボディトップを一生懸命ならしているように感じる。

バキッとした輪郭があり、音の向こう側に「板」が見える。硬めの板が。

硬質というほど冷たいわけではないが、瑞々しいという言葉からはかなり遠い。

乾燥ワカメである。

Sweet 16には湿り気がある

Sweet 16は少し違う。
弦がトップを鳴らしているというより、ボディの隅々までが一緒になって鳴っているように感じる。
音が一点から出るのではなく、ギター全体から骨太な音が立ち上がってくる。

音に弾力、歯ごたえ、そして少し粘りがあり、弾いた瞬間だけではなく、そのあとにも味が残る。

甘さもある。塩気もある。少し酸味まであるような気がする。

そして何より、旨味がある。

だから、たくあんなのである。

私の尺度

こう書くと、私がHeritageをかなり高く評価しているように見えるかもしれない。

まあ、実際そうなのである。

音だけではない。弾き心地も、佇まいも、このギター全体が私は好きだ。

そして今回の主題である音について言えば、Sweet 16の方が明らかに好みである。

辻四郎を弾いたあとにSweet 16を弾くと、そのことを毎回思い知らされる。

以前の私なら、ここで「もちろん優劣の話ではない」と書いたかもしれない。

しかし、それでは今回わざわざ音について書き始めた意味がない。

少なくとも、私の尺度ではそうなのである。

ただ、この二本を並べて弾くようになってから、少し面白いことにも気づいた。

Sweet 16だけを弾いていた頃よりも、その官能がよく分かる。

そしてSweet 16を知ることで、GEM-Bのクリスピー加減もまた、以前よりはっきりと分かる。

比べることで、どちらか一方が霞むのではない。

むしろ、それぞれの輪郭が濃くなる。

そう考えると、壁にこの二本だけが掛かっているというのも、案外悪くない。

乾燥ワカメと、たくあん。

どう考えても似てはいない。

だからこそ、毎日眺めていて飽きないのである。

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