Manhattanが変えたBenedetto

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90年代モデル体系の成立と、Fratello・Limeliteの再定義

最近の当サイトは、少々話が込み入ってきたように思う。
価格表を並べ、製作記録を読み、モデルの役割まで考え始めると、”です・ます”調では妙にこそばゆく感じてきた。

そこでこの様な考察系、また格好つけたコラムの時は”である”調で進めることにする。

内容が難しくなったのではない。書いている本人が少しその気になっているだけである。(^^;;

さて、90年代のBenedettoを象徴するモデルは何か。

目次

90年代Benedettoの象徴

最上位モデルを挙げるなら、Cremonaであろう。

価格、装飾、木材、そして純粋なアコースティック・アーチトップとしての立ち位置まで含め、90年代のラインナップにおける頂点はCremonaだったと考えている。

しかし、時代そのものを象徴するモデルとなれば、答えはManhattanである。

Manhattanは最高額ではない。最も豪華なモデルでもない。それでも90年代を通じて数多く製作され、Benedettoの標準的な姿として定着していった。

17インチのボディ、フローティング・ピックアップ、抑制された指板装飾、細身のフィンガーレスト、ハープ型テールピース。そこには、伝統的なアーチトップの形式を踏まえながらも、それをそのまま引き継がないBenedetto独自の輪郭があった。

Manhattanは、単に人気モデルになったのではない。

その登場によって、それ以前から存在していたモデルの意味まで変わったのではないか。

Manhattan以前のモデル体系

1980年代までのBenedettoには、後の90年代とは少し異なるモデル体系があった。

当時の標準仕様を見ると、Limeliteは16インチ、Cremonaは17インチ、Supremeは18インチ。それぞれが異なるボディサイズを担う上級モデルとして並んでいる。[1]

余談になるが、1975年12月の資料には17インチモデル、18インチモデル、そして19インチモデルの3本柱がラインナップとして記されている。
面白そうなのでこれについてもいつか調査をしていきたい。

さて、1980年7月25日付の価格表では、LimeliteとCremonaはいずれも3,000ドル、その上に3,500ドルのSupremeが置かれていた。[1]

つまり、Limeliteは単なる小型廉価モデルではない。

16インチでありながら、17インチのCremonaと同額である。ボディサイズがそのままモデルの格を決めていたわけではなかった。

一方、Fratelloはこの上級モデル群より明確に価格を抑えられていた。

初期のFratelloは17インチで、削り出しの表裏板、エボニー指板、カーリーメイプルの3ピースネック、#102G Grover gold Rotomatic tuning machines、フローティング・ピックアップを備えていた。決して簡素な量産品ではない。[2]

それでも、同時期のLimeliteやCremonaとは大きな価格差があった。

では、Fratelloは何のために存在したのか。

Fratelloは誰のために作られたのか

初期のFratello販売資料には、その目的が驚くほど率直に書かれている。

それまでBenedetto氏は、全米のプロギタリストに向けてアーチトップを製作し、その評価を高めてきた。Bucky Pizzarelli、Joe Diorio、Cal Collinsらの名を挙げた後、販売資料は次のように続く。

これまでBenedettoを所有するには、少なくとも2,500ドルを費やす必要があった。しかし、もはやその必要はない。現在の不安定な経済状況のもとでは、平均的な現役ギタリストが質の高いジャズギターを購入することは事実上困難である。一方、こうしたフルボディの楽器への関心は高まりつつある。そこでBenedetto氏は、最新モデルFratelloを投入し、より競争の激しい市場へ参入することを決めた。

伝統的な手作業で製作されるこのギターの希望小売価格は1,850ドルである。Benedettoの名と品質を備えたFratelloは、市場の「競合製品」と比べるべくもない。

(Benedetto GuitarsによるFratello販売資料より、筆者訳)

“現在の不安定な経済状況のもとでは、平均的な現役ギタリストが質の高いジャズギターを購入することは事実上困難である。”

原文で使われているのは、“the average working guitarist”という言葉である。[2]

Fratelloには、最初から明確な購入者像があった。

Benedettoを求めながらも、従来の価格には届かない現役演奏家である。

したがって、初期Fratelloは明確な価格戦略を持ったモデルだった。Benedetto氏自身が「より競争の激しい市場」へ参入するためのモデルだと説明している以上、ここを後世の美辞麗句で包み直す必要はない。

ただし、単なる安価なBenedettoと片付けるのも正確ではない。

品質そのものを落としたというより、装飾や仕様を整理し、Benedettoの基本的な製作水準を現役演奏家へ近づけたモデルだったのである。

Fratelloは、Benedettoの品質を下げたモデルではない。
Benedettoまでの距離を縮めたモデルだった。

ここに、Fratelloの出発点がある。

Manhattanの登場

Manhattanの第一号(#16689)は、1989年1月に製作されている。[3]

この一本の登場を、単なる新モデルの追加として見ることもできる。しかし、その後のラインナップをたどると、Manhattanは既存モデルの間へ静かに収まったのではない。

むしろ、Benedettoの中心そのものを作り替えていった。

Manhattan登場直後とみられる価格表では、ManhattanとFratelloはいずれも3,500ドル。Cremonaは通常ラインから外れ、「特注のみ」と記されている。[4]

すでにこの時点で、従来のサイズ別上級モデル群とは異なる体系が姿を見せ始めている。

Manhattanは17インチの高級アーチトップでありながら、従来の豪華さを競う方向には進まなかった。

指板装飾を抑え、細身のフィンガーレストとハープ型テールピースを備え、全体を簡潔にまとめる。伝統的なジャズギターの形式を保ちながら、その見た目の重心を明らかに変えている。

それはFratelloとも、Limeliteとも違う。

Manhattanは、90年代のBenedettoが新たに選んだ標準形だった。

FratelloはManhattanの下位モデルではない

現在の目でラインナップを見ると、FratelloはManhattanの下位モデルに見えやすい。

ところが、当時の価格表はその理解をきれいに否定している。

価格表の時期 Manhattan Fratello Limelite Cremona
1991年7月 $4,500 $4,700 $6,500 $10,500
1992年3月 $5,300 $5,500 $7,000 $12,500
1992年6月 $6,500 $6,800 $8,500 $15,000
1995年6月 $9,000 $9,500 $22,500 $35,000
1997年6月 $17,500 $17,500 $35,000 $50,000

各年のBenedetto Guitars価格表をもとに筆者作成。[5] [6] [7] [8] [9]

Manhattan登場後、両モデルはほぼ同価格帯に置かれ、1990年代前半にはFratelloの方がわずかに高い。

差額そのものは大きくない。

しかし重要なのは、FratelloがManhattanより下に置かれていないことである。

FratelloはManhattanの廉価版として作られたモデルではない。そもそもManhattan以前から存在していた。

より正確に言えば、Manhattanの登場によってFratelloの役割が変わったのである。

Fratelloの再定義

初期Fratelloは、現役演奏家へ向けた価格戦略モデルだった。

ところがManhattan登場後、Fratelloは同価格帯の別モデルとして並ぶようになる。

両者の違いは、格ではなく様式に現れている。

Fratelloには大きな指板インレイ、伝統的なピックガード、左右対称のエボニー製テールピース、古典的な黒白のバインディングが与えられた。

一方のManhattanは、指板装飾を排し、細身のフィンガーレストとハープ型テールピースを採用する。[5]

Fratelloが伝統的なジャズギターの姿を残したのに対し、ManhattanはBenedetto独自の様式を前面へ出した。

つまり、90年代のFratelloはもはや単なる普及モデルではない。

Manhattanが新しいBenedettoの標準形なら、Fratelloは伝統的なアーチトップ様式の標準形だった。

Fratelloは、現役演奏家に向けた価格戦略モデルとして生まれた。

しかしManhattanの登場後、その役割は伝統様式を担う正式なモデルへと変わっていった。

同じモデル名が残ったため、その変化が見えにくかっただけである。

Limeliteは16インチモデルではなくなった

Limeliteもまた、Manhattan以前と以後で意味が変わったモデルである。

初期のLimeliteは16インチを担当していた。

Cremonaが17インチ、Supremeが18インチを担う中で、Limeliteは16インチの上級モデルとして存在していた。[1]

しかし90年代になると、Limeliteは17インチが標準的となる。

この時点で、Limeliteを「小型モデル」と認識する理由はほとんどなくなる。それでもLimeliteという名前は残った。

ここでモデルの意味は、サイズから様式と格へ移ったと考えられる。

90年代のLimeliteには、伝統的な形状のピックガード、変形のスプリットブロックインレイ、幅広く開いたヘッド、複雑な多層バインディング、マザー・オブ・パールを入れたテールピースなどが与えられている。[6]

Fratelloと同じく伝統的なピックガード様式を持ちながら、その装飾と価格は明らかに上位へ置かれた。

特に1990年代半ばになると、Limeliteの価格はFratelloやManhattanから大きく離れていく。

1992年6月には、Manhattanが6,500ドル、Fratelloが6,800ドル、Limeliteが8,500ドルだった。

それが1995年6月には、Manhattanが9,000ドル、Fratelloが9,500ドルであるのに対し、Limeliteは22,500ドルに達している。[7] [8]

Limeliteは、もはや16インチの役割を担うモデルではない。

90年代のLimeliteは、伝統的なピックガード付きアーチトップを、Benedettoの中でより上位へ展開したモデルだった。

FratelloとLimelite

ここで、FratelloとLimeliteの関係も見えてくる。

両者は、Manhattanを基準にした上位・下位モデルではない。

90年代には、同じ伝統様式を、それぞれ異なる価格帯と格で担っていた。

Fratelloがその標準形であるなら、Limeliteはより上位に置かれたモデルであった。

一方、Manhattanはその系列に属さない。

Manhattanは、装飾を抑えた新しいBenedetto様式の標準形である。

そしてCremonaは、これらの様式差を超えた体系全体の頂点に置かれていた。

モデル 90年代における役割
Manhattan Benedetto独自様式の標準形、時代の象徴
Fratello 伝統的ピックガード様式の標準形
Limelite 伝統的ピックガード様式の上位モデル
Cremona Benedettoの頂点

CremonaがBenedettoの頂点であることと、Limeliteが伝統的ピックガード様式の上位モデルであることは矛盾しない。

この構成は、1980年代までのサイズを基準としたモデル体系とは、明らかに異なるものである。

1989年と1990年の間

もちろん、1989年12月31日までは旧体系で、翌朝から新体系へ切り替わったわけではない。

工房の歴史は、そこまでデジタルではない。

実際には数年間の過渡期が存在したはずである。

旧来のサイズ別の役割が残る一方で、Manhattanを中心とする新しい様式別の体系が、徐々に形成されていった。
また、ヘッドロゴが今の姿に刷新されたのは1993年である。

Limeliteは、16インチ担当から伝統様式の上位モデルへ。

Fratelloは、現役演奏家に向けた価格戦略モデルから、伝統様式の標準形へ。

Cremonaは、17インチの上級モデルからBenedetto全体の頂点へ。

これらは同時に、同じ速度で変わったわけではないだろう。

そのため、過渡期の個体や価格表だけを切り取れば、モデルの位置づけは揺れて見える。

しかし、その揺れこそが転換の痕跡である。

Manhattanが変えたもの

Manhattanは、90年代Benedettoを代表するモデルだった。

だが、その重要性は製作数や人気だけではない。

Manhattanが登場したことによって、それ以前から存在していたFratelloとLimeliteは、新しい役割を与えられた。

モデル名は変わらなかった。

変わったのは、その名前が指す場所だった。

Manhattanは、ラインナップに新しい一本を加えたのではない。
既存モデルの意味を組み替え、90年代Benedettoそのものを成立させた。

参考資料

  1. Benedetto Guitars, price list effective July 25, 1980. Supreme、Cremona、Limelite、7-Stringの標準仕様および価格。
  2. Benedetto Guitars, Fratello dealer sales sheet, Clearwater, Florida. Fratelloの販売目的、想定購入層、標準仕様、希望小売価格を記載。
  3. Robert Benedetto, production log. Manhattan第1号 #16689、1989年2月。
  4. Benedetto Guitars, Fratello/Manhattan brochure and price list, late 1980s–1990頃。両モデルを同価格で掲載し、Cremonaを特注扱いとしている資料。
  5. Benedetto Guitars, price list effective July 1991. Manhattan、Fratello、Limelite、Cremona各モデルの価格および仕様。
  6. Benedetto Guitars, price list effective March 1992. 各モデルの価格およびFratello、Manhattan、Limelite、Cremonaの仕様説明。
  7. Benedetto Guitars, price list effective June 1992. 各モデルの価格および標準仕様。
  8. Benedetto Guitars, price list effective June 1, 1995, revised May 23, 1995.
  9. Benedetto Guitars, new prices effective June 14, 1997.
  10. Benedetto, Robert. Making an Archtop Guitar. カラーページのモデル仕様および製作ログを参照。

※価格表および販売資料の記載をもとに筆者が整理した。引用部は筆者訳。モデルの役割に関する記述は、同時期の価格、標準仕様、製作記録を照合したうえでの筆者の考察である。

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