ギターを壁に掛けて保管するようになって、2か月ほどが経ちました。
それまでは、弾き終えればハードケースへ戻す。
眺め終えても戻す。
少し面倒でも、それがいちばん安全だと思っていました。
ケースに入れておけば埃は防げますし、不意の接触にも強い。
何より我が家では、子供たちの襲来という、温湿度よりはるかに切実な災害から、何度もギターを守ってきました。
その意味では、ハードケースへの信頼はかなり厚いものでした。
ただ、2ヶ月前から念願叶っての壁掛け保管。充実感、満足感に持ち前の心配性も入り込む余地はなかったのですが、この風景に慣れてきますとあまり考えなかったことが気になり始めます。
室内の湿度が急に上がったとき。
除湿機を回して一気に下がったとき。
ケースの中は、実際にはどうなっているのでしょう。
出したままのギターとは、どれほど違うのでしょうか。
おそらく、ハードケースにはある程度の緩衝作用がある。そんなことは測らなくても想像できます。
問題は、その「ある程度」が、どの程度なのかです。
そこで今回は、防音室内とハードケース内部にそれぞれ温湿度計を設置し、室内湿度が大きく変化した際、ケースの中がどのように反応するのかを記録してみました。
ハードケースはHeritage Sweet 16の純正。所謂普通のどこにでもある感じのハードケースです。
使用した温湿度計

今回使用したのは、SwitchBotの温湿度計プラスです。
同一機種を2台用意し、1台を防音室内、もう1台をハードケース内に設置しました。
スマートフォンのアプリと接続することで、温度と湿度の推移を記録し、データとして書き出すことができます。
本体にも温度と湿度が常時表示されますので、単純な温湿度計としても使えます。
測定を始める前に、2台の表示差を確認しました。
手元にあったタニタの温湿度計も加え、3台を同じ場所へ並べています。

- SwitchBot 1台目:23.0℃、58%
- SwitchBot 2台目:23.0℃、58%
- タニタ:23.3℃、58%
湿度は3台とも一致しました。温度差も最大0.3℃に収まっています。
温湿度計というものは、同じ場所へ置いても案外違う数字を出すことがあります。
その点、今回は拍子抜けするほど揃っていました。
SwitchBot同士の数値は完全に一致していたため、補正は行っていません。
測定方法
1台はハードケースのすぐそばに設置し、それを室内環境の基準としました。
もう1台は、ギターを収納したハードケース内へ入れています。
ケース内部には、温湿度計を安全に置ける場所がほとんどありません。
ボディ付近には十分な隙間がなく、無理に置けばギターやケース内装を傷つけるおそれがあります。
そのため今回は、ヘッド裏付近に設置しました。

この設置場所については、注意が必要です。
今回測定したのは、厳密にはケース内部全体の平均的な温湿度ではなく、ヘッド周辺の値です。
ボディ周辺とネック周辺では、ケース内部の空間や内装材の量がおそらく異なります。
ケースの合わせ目からの距離にも差がありますので、内部のすべての場所が完全に同じ数値で推移していたとは限りません。
木材の体積が大きいボディ周辺では、ギター本体の吸放湿による影響が、ヘッド付近より強く現れる可能性があります。
逆に、ヘッド側の方がケースの隙間や外気の影響を受けやすい構造であれば、今回の数値は、ケース内部でも比較的変化しやすい場所を記録していた可能性もあります。
したがって、今回の結果は細かくみますと「ハードケース内のヘッド裏付近では、湿度がこのように推移した」というものです。
ケース内部の湿度分布そのものを調べるには、より小型のセンサーを複数設置する必要があります。
セパレートの小型外部センサー付きのものを使い、それをサウンドホール内に突っ込むという狂気の方法も頭をよぎったのですが、今回はそこまでの測定ではありません。
したがって、今回の測定値は、あくまでハードケース内のヘッド裏付近のものです。ケース内部全体を均一に測定した結果ではないことは、あらかじめ断っておきます。
さて、ケースを閉じたのは、2026年8月1日15時10分頃です。
設置画像は試験終了後のものですので、日時はズレていますが気になさらないでください。笑
設置直後は、ケースを開けていた影響や、温湿度計を手で持った影響も残っているはずです。そのため、今回の分析には同日15時30分以降の記録を使いました。
測定期間は、2026年8月1日15時30分から8月2日17時30分までの約26時間。記録間隔は1分です。
室内湿度が大きく動く環境
今回は、実験のために加湿器を持ち込み、無理やり湿度を上げたわけではありません。
我が家の防音室では、エアコンの「おそうじ機能」が作動すると、室内湿度が急激に上昇します。これは今回だけにつくった特殊な状況ではなく、それまでにも日常的に起きていた現象というわけです。
エアコンの通常運転中は問題がなくても、停止後におそうじ機能が始まると、室内湿度が80%近くまで上がることがあります。壁掛け保管を始めてから気になっていたのも、まさにこの湿度上昇です。
今回は、普段どおりにおそうじ機能を作動させ、その高湿度状態を記録しました。その後、就寝前から除湿機を稼働させ、今度は室内湿度を大きく下げています。翌日には除湿機を停止し、湿度が再び上昇していく過程も記録しました。
つまり今回は、エアコンのおそうじ機能による高湿度、除湿機による低湿度、除湿機停止後の再上昇という一連の変化に対して、ハードケース内部がどのように反応するのかを見たことになります。
その間、壁に掛けられているのはGEM-Bです。四郎なら大丈夫。
室内は38〜77%、ケース内は52〜54%
結果は、予想していた以上にはっきりしていました。
防音室内の湿度が38%から77%まで大きく変動したのに対し、ハードケース内部は52%から54%の範囲に収まりました。室内の変動幅が39ポイントだったのに対し、ケース内部の変動幅はわずか2ポイントです。

防音室内は38〜77%まで変化しましたが、ハードケース内は52〜54%の範囲に収まりました。
グラフを見ると、その差はほとんど説明を必要としません。防音室内の湿度は、高湿度の状態から急激に下降し、その後再び上昇しています。ハードケース内部の線は、ほぼ水平です。
測定開始から終了まで、大きな変化は見られません。室内湿度がこれほど大きく乱高下しているにもかかわらず、ケース内部はほとんど動いていません。
「多少は変化を緩やかにするだろう」とは考えていました。ただ、ここまで差が出るとは思っていませんでした。
ハードケース、かなり強いです。
温度はある程度追従している
湿度とは異なり、温度にはある程度の変化が見られました。防音室内の温度は22.8〜28.4℃、ハードケース内部は22.9〜27.7℃の範囲で推移しています。

温度はハードケース内でも室温に合わせて変化しました。湿度ほど強く抑えられてはいません。
ケース内部の温度も、室温の変化に合わせて上下しています。多少は緩やかですが、湿度のようにほとんど動かないわけではありません。
この結果を見ると、ハードケースは外気の変化を完全に遮断しているのではなく、湿度に対して特に強い緩衝作用を示しているように見えます。
もちろん、温度と相対湿度は無関係ではありません。温度が上がれば、同じ水分量でも相対湿度は下がります。
それでも、室内側の湿度変化が39ポイントに達しているなか、ケース内部が2ポイントに収まったという差は、かなり大きなものです。
ハードケース自体が調湿剤なのか
ここまで数字が動かないと、ハードケースそのものが調湿剤として働いている、と言いたくなります。
実際、ケース内部の空気だけでなく、布地やクッション材、木製の外殻、そして収納されているギター本体も、湿気を吸ったり放出したりしているのでしょう。
ただし、「調湿」という言葉を使うなら、少し慎重であるべきです。
調湿剤は、周囲の湿度を適正な範囲へ近づけるために使われます。ハードケースが、常に50%前後へ湿度を整えてくれるわけではありません。
高湿度の環境でケースを長く開けていれば、その高い湿度を閉じ込める可能性があります。低湿度の環境で閉じた場合も同じです。
ケースが行っているのは、湿度を正しい値へ導くことではなく外気の変化が内部へ伝わる速度を遅らせ、振れ幅を小さくしている。そう考える方が自然です。
調湿というより、吸放湿による緩衝と遅延。今回確認できたのは、そうした働きなのでしょう。
完全に密閉されているわけではない
ハードケース内部の相対湿度は、52〜54%の範囲に収まりました。ただし、ケース内部が外気から完全に遮断されていた、と考えるのは少し違うように思います。
温度は室内環境に合わせて変化しています。絶対湿度を見ても、ケース内部の水分量は一定ではありませんでした。
つまり、空気や水分は少しずつ出入りしています。
それでも、内装材や木材が湿気を受け止めることで、相対湿度の急激な変化を抑えていたのでしょう。
外気を完全に遮断しているのではない。変化を受け止め、時間をかけて内部へ伝えている。ハードケースの働きは、そのようなものなのかもしれません。
壁掛け保管との差
壁に掛けられたギターは、室内環境の変化をほぼそのまま受けます。今回、防音室内の湿度は77%から38%まで下がり、その後再び上昇しました。壁掛けのギターも、この変化にさらされていたことになります。
ケース内部のギターは、その間も52〜54%の範囲に収まっていました。その差はかなり大きいです。
もちろん、壁掛け保管がただちに危険という話ではありません。一般的な住宅環境で、これほど急激に湿度が動くことは多くないでしょう。
ただ、今回の高湿度は、加湿器を使って作り出したものではなく、我が家でのエアコンのおそうじ機能によって日常的に起きていました。
冷暖房や除湿機の使用、季節の変わり目、換気状態の変化によって、室内湿度が短時間で大きく動くことはあります。
壁掛けには、すぐ手に取れるという大きな利点があります。眺める楽しみもあります。ケースから出す手間がなくなることで、弾く機会が増えるという人もいるでしょう。
私の場合、弾く機会より眺める時間が増えた気もしますが、それはまた別の問題です。
便利さと引き換えに、室内環境の変化を直接受ける。今回の測定は、その当たり前のことを、かなり分かりやすい形で示しました。
今回の結果
今回の測定条件と結果をまとめると、次のようになります。
- 測定時間:約26時間
- 測定位置:ハードケース内のヘッド裏付近
- 防音室内湿度:38〜77%
- 防音室内の変動幅:39ポイント
- ハードケース内湿度:52〜54%
- ハードケース内の変動幅:2ポイント
室内湿度が大きく変化しても、ハードケース内部の相対湿度はほとんど動きませんでした。少なくとも約26時間という短期的な測定では、ハードケースは外気の急激な湿度変化を強く緩和しています。
結論そのものは、想像していたとおりです。
ハードケースに入れておけば、出したままにしておくより湿度変化を受けにくい。誰でも考えつく話でしょう。
ただ、室内が38〜77%まで動いている横で、ケース内部が52〜54%に収まるとは思っていませんでした。
何となく信じていたことが、数字になると印象は変わります。
ハードケースは、単にギターを運ぶための箱ではありません。少なくとも短時間の環境変化に対しては、かなり優秀な緩衝装置です
結び
今回の検証では、一般的な木製ハードケースの中が、室内の湿度変化に対してどのように反応するのかを確認しました。
ともかく、短時間の急激な湿度変化を和らげる効果はあるようです。
ただし、ハードケースに入れておけば、それだけで安心というわけではありません。
高湿度や低湿度の状態が長く続けば、ケースの中も少しずつ影響を受けます。また、ケースを閉じた時点の湿度が高ければ、その状態を保ってしまうことも考えられます。
それでも、室内にそのまま置いておく場合と比べれば、ハードケースに収める意味は十分にあると感じました。
これまで私は、ギターを弾き(眺め)終えればケースへ戻すことを基本にしてきました。今回の結果を見る限り、その習慣は決して無駄ではなかったようです。
ハードケースは、湿度の問題を解決してくれるものではありません。ただ、急な変化からギターを守るための時間を、少し稼いでくれます。
今回の検証で確認できたのは、まずそのことでした。
秋口から春先までを壁掛け期間としましょうかね。
あ、辻四郎GEM-Bは常設展示です。勿論。


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