Benedetto Americana再考|一本の鉛筆書きから始まった考察

目次

一本の鉛筆書きから始まった考察

鉛筆で書かれた二語

Robert Benedetto氏のログブックに、少し気になる記録があります。

シリアルナンバーは#30393。手書きのログブックには、次のような仕様が記されています。

Manhattan Custom
18″
Non-cutaway
Sunburst
X brace
No pickup
3″ body depth
1 11/16″ nut
Tom Van Hoose

18インチのノンカッタウェイ。Xブレイスで、ピックアップはありません。Tom Van Hoose氏のために製作された、特別仕様のManhattanです。

そしてその記録の脇には鉛筆で二語が書き添えられています。

Americana Prototype

さらにRobert Benedetto氏の著書『Making an Archtop Guitar』では、このギターがカラーページにAMERICANAとして掲載されています。同書に収録された活字版ログブックにも、(Americana model prototype)と記されています。

一方、後年市場へ姿を現した実物のラベルに記されていたモデル名は、Manhattanでした。

つまり、この一本には、ManhattanAmericanaという二つの名前が残されているのです。

では、なぜManhattan Customとして製作されたギターが、Americanaのプロトタイプとして位置づけられたのでしょうか。

以前このブログでAmericanaについて書いた時、私は1990年代に製作されたこの一本と、後のSavannah Americanaを、同じ名前を持ちながら大きく姿を変えたモデルとして捉えていました。

しかし、実物のログブックを見直し、Tom Van Hoose氏の著書や、Super 400、D’Angelico、Benedettoに関する資料を読み返していくうちに、別のことが気になり始めました。

後のAmericanaが、なぜ最初の一本と異なるのか。

それ以前に、Manhattan Customとして製作された#30393は、どのような意味でAmericana Prototypeだったのでしょうか。

今回は、残された記録をたどりながら、そのことを改めて考えてみたいと思います。

最初は、Super 400だと思いました

#30393の仕様を見て、最初に思い浮かんだのはGibson Super 400でした。

18インチ、ノンカッタウェイ、ピックアップなし。そして注文主は、『The Gibson Super 400: Art of the Fine Guitar』の著者であるTom Van Hoose氏です。

これだけ条件が揃えば、Super 400を意識して製作されたギターだと考えるのは、ごく自然なことに思えます。

ただ、一つだけ気になったのが、ログブックのX braceという記載です。

私の中にあったSuper 400は、パラレル・ブレイスを持つ後年の姿でした。そのため、Xブレイスと書かれていることに、少し違和感を覚えました。

そこで思い浮かんだのが、もう一つの18インチ・アーチトップ、D’Angelico New Yorkerです。

18インチのノンカッタウェイで、Xブレイス。#30393はSuper 400というより、むしろNew Yorkerに近いのではないか。一度はそのように考えました。

しかし、それはSuper 400の歴史を一部分だけで見ていたために生まれた考えでした。

見えていたもの、見えていなかったもの

二本の18インチ

Ken Parker氏は、アーチトップのブレイシングを論じた記事の中で、初期のSuper 400について次のように記しています。

“the early 400s were X braced”

初期のSuper 400には、Xブレイスが採用されていました。

Parker氏によれば、1934年に登場したSuper 400は、Gibsonで初めてXブレイスを採用したアーチトップでした。その後、1940年頃にはrail braces、いわゆるパラレル・ブレイスへ戻ったとされています。

つまり、#30393の「X brace」は、Super 400とのつながりを否定する材料ではありませんでした。

18インチ、ノンカッタウェイ、ピックアップなし、Xブレイス。むしろ、後年のエレクトリック化されたSuper 400ではなく、その初期の姿を思わせる仕様とも考えられます。

ここで、自分がSuper 400をどの時代の姿で見ていたのかに気づきました。

頭に浮かべていたのは、後年広く知られるようになったSuper 400です。一方、Van Hoose氏が見ていたのは、誕生から仕様の変遷までを含めたSuper 400だったはずです。

しかも私は、この本『The Gibson Super 400: Art of the Fine Guitar』をハードカバー版に加え、ペーパーバック版を1冊、さらにVan Hoose氏のサイン入りを3冊、合計5冊も所蔵しています。(狂気)

当時、擦り切れるほど読んだつもりでいた本なのに、なぜ初期Super 400のXブレイスをきちんと理解していなかったのか。蔵書数と理解の深さが比例しないことを痛感すると同時に、Super 400に対する自分の理解の浅さを、今ほど恥じたことはありません。

さらにParker氏の記事には、1939年製Super 400Nの内部写真が掲載され、資料提供者としてTom Van Hoose氏の名前が記されています。このギターは水害を受けて分解された状態から、Marty Lanham氏によって修復されていたものです。

Van Hoose氏は、Super 400を外観やスペックだけで追っていたのではありません。実物の内部構造まで調べ、その資料を残していました。

Ken Parker「Etude: Arched Plates: Bracing the Top」

そしてVan Hoose氏の著書では、Super 400の競合としてD’Angelico New Yorkerも取り上げられています。

同書には、1941年製Super 400Nと1947年製New Yorkerを具体的に比較した箇所があり、外観や寸法だけでなく、内部構造の違いにも触れられています。

1941年製Super 400Nはパラレル・ブレイス、比較対象として掲載された1947年製New YorkerはXブレイス。

Van Hoose氏は、Super 400とNew Yorkerを18インチの大型アーチトップとして比較し、構造上の違いにも目を向けていました。

そう考えると、#30393を見て「Super 400なのか、New Yorkerなのか」と二者択一で考えたこと自体が、少しずれていたのかもしれません。

過去の大型アーチトップを思わせる仕様を持ちながら、完成した姿にはBenedettoらしさがよく表れています。

とりわけ、間延びして見えやすいノンカッタウェイのピックガードを、ここまで自然にまとめている点は印象的です。

Super 400とNew Yorker。その両方をよく知る注文主のために、Robert Benedetto氏が自身の様式で作った18インチ・アーチトップ。

まずは、そのように見る方が自然に思えてきました。

Van Hoose氏が見ていたBenedetto

Super 400の競争相手として

Van Hoose氏の著書『The Gibson Super 400: Art of the Fine Guitar』には、「Competitors of the Super 400」と題された章があります。

Epiphone、D’Angelico、Stromberg、Gretschなど、Super 400と同じ大型アーチトップの領域に現れたギターを取り上げた章です。その終盤で、Van Hoose氏はRobert Benedetto氏にも触れています。

そこで紹介されるのが、18インチのBenedetto Supremeです。

Van Hoose氏は、Benedetto氏が1968年にカーヴドトップ・ギターの製作を始めたことに続け、Supremeを次のように位置づけています。

“a worthy competitor to the Super 400”

Super 400に比肩しうる競争相手。

短い表現ですが、Van Hoose氏がBenedettoをどのように見ていたのかは、よく表れています。

単にSuper 400の意匠を借りた製作家としてではなく、Super 400と比較できる大型アーチトップを作る、同時代の製作家として見ていたのでしょう。

同じ箇所では、Benedetto氏がアメリカ材とヨーロッパ材の双方を用い、トップにはパラレル・ブレイスとXブレイスのいずれも採用していることにも触れられています。

ただし、この記述だけで、#30393の注文意図が判明するわけではありません。

Van Hoose氏がBenedetto Supremeを高く評価していたことと、自ら注文したギターの仕様をどのように決めたのかは、別の問題です。

Van Hoose氏は著書の中で、18インチのBenedetto SupremeをSuper 400の競争相手として評価しています。そうした記述を踏まえると、#30393がSupremeではなく、Manhattan Customとして製作された点は気になります。

もっとも、Supremeが#30393の製作時にも現行モデル名として使われていたかは分かりません。Manhattan Customと記録されたこと自体に、特別な意味を求める必要はないのかもしれません。

むしろ現物を見ると、18インチのノンカッタウェイでありながら、装飾や全体の意匠にはManhattanらしさが残されています。

CremonaやFratello、LimeliteではなくManhattanだったのは、その簡潔で現代的なBenedettoの様式を土台に、大型ノンカッタウェイという仕様を組み合わせるためだったのかもしれません。

そう考えれば、ログブックの「Manhattan Custom」は、このギターのモデル上の基礎を示し、「Americana Prototype」という鉛筆書きは、それとは別の角度からこの一本を捉えた言葉だった可能性があります。

モデル名と一台ごとの仕様

今回あらためて参照したPaul William Schmidt著『Acquired of the Angels: The Lives and Works of Master Guitar Makers John D’Angelico and James L. D’Aquisto』には、D’Angelicoのモデル名について興味深い記述があります。

同書によれば、D’Angelicoのモデル名は、具体的で厳密な仕様区分というよりも、実際にはガイドラインに近いものでした。

同じモデル名の中でも、ボディサイズや厚み、ブレーシング、ネック、トップやバックの削り方などには違いがあり、そのギターに求められる用途や注文者の希望に応じて仕様が調整されていたといいます。

もちろん、D’Angelicoについての記述を、そのままBenedettoに当てはめることはできません。

Robert Benedetto氏が#30393をどのように考え、なぜAmericanaと名づけたのか。それを直接説明する本人の証言は、今のところ確認できていません。

ただ、少なくとも今回確認できた資料の範囲では、Manhattan CustomとAmericana Prototypeという二つの記載が並んでいることを、直ちに矛盾と考える理由は見当たりません。

Manhattan Customは、このギターを製作する際のモデル上の基礎を表し、Americana Prototypeは、完成した一本へ与えられた別の位置づけだった。そのように考える余地はあります。

Tom Van Hoose氏のための一本

#30393がTom Van Hoose氏のために製作されたことも、無視できない要素です。

Tom Van Hoose氏は、Gibson Super 400をはじめとする大型アーチトップの研究家であり、コレクターでもありました。

18インチ、ノンカッタウェイ、ピックアップなし、Xブレイスという仕様は、偶然並んだものには見えません。

大型のアメリカン・アーチトップに深く親しんだ注文主の好みが、このギターへ反映された可能性は十分にあります。

SchmidtはD’Angelicoについて、芸術家であるだけでなく、生計を立てる職人でもあり、限度はありながらも顧客の希望に応じていたと記しています。

これも、Benedettoへそのまま移して断定できる話ではありません。

それでも、カスタムメイドを中心としてきたBenedettoにおいて、注文者の嗜好が一本の仕様や、その後のモデル構想に影響したとしても不思議ではありません。

このような顧客の要望への柔軟さを、当然のことと考える方もいるかもしれません。しかし、実際にはそうとも限りません。

モデル間に明確なヒエラルキーが存在する場合、下位モデルが上位モデルを脅かすような仕様変更を避けるという考え方もあります。

少なくとも2000年代初頭、Buscarinoの最上位モデルであるVirtuosoをオーダーした際には、多少の自由が利くものと期待していましたが、実際には思いのほか規定に忠実で、少し肩透かしを受けた記憶があります。

その経験があったからでしょうか。後にBenedettoへ16インチのカスタムを依頼した際、こちらの希望を頭から否定することなく、一つひとつ柔軟に受け止めてくれたことが、ことのほか嬉しく感じられました。

もっとも、私自身のオーダー経験から、#30393の成立事情まで断定することはできません。

ただ、#30393を最初から完成された量産モデルの試作として見るよりも、Tom Van Hoose氏のために製作された特別なManhattanが、結果としてAmericanaの原型として位置づけられていった、と考える方がしっくりきます。

D’Angelicoの構造を、どう読み取ったか

Robert Benedetto氏は、過去のアーチトップをそのまま手本にしていたわけではありません。

Making an Archtop Guitar』には、D’Angelicoのギターを修理した経験について触れた箇所があります。

Benedetto氏は、D’Angelicoのトップやバックのセンター・ジョイントに沿って細い補強材が貼られていることに気づき、製作を始めた頃には、自身のギターにも同じ方法を取り入れていたと記しています。

しかし後年、より精度の高いジョイントが可能になるにつれ、その補強は必ずしも必要ではないと考え、使わなくなりました。

これはD’Angelicoの製作法を否定したという話ではありません。

修理を通して構造を観察し、まず自分でも試し、その役割を理解したうえで、必要かどうかを判断した。製作家としては、ごく自然な過程でしょう。

ただ、この記述からは、Benedetto氏がD’Angelicoを無条件に踏襲すべき完成形として見ていたのではないことが分かります。

形を写すだけでなく、なぜその構造が使われているのかを考える対象だったのです。

Frank W. M. Green著『John D’Angelico: Master Guitar Builder: What’s in a Name?』では、5ページにBenedetto氏による前書きが収められ、52〜54ページでは、彼自身がD’Angelicoの修理経験などについて記しています。

彼にとってD’Angelicoは、写真や評判を通して知るだけの存在ではなく、実際に内部まで見ることのできたギターでした。

そう考えると、#30393についても、Super 400かNew Yorkerかという二者択一で考える必要はなさそうです。

#30393には、初期のSuper 400やNew Yorkerを思わせる要素があります。

しかし、どちらに近いかを決めることよりも、18インチ、ノンカッタウェイ、Xブレイスという古典的な大型アーチトップの要素を、Manhattanを土台としてまとめたカスタムと見る方が自然でしょう。

Americanaという名前

三本目の18インチ

Super 400とNew Yorker。どちらも18インチを代表するアメリカン・アーチトップですが、その成り立ちは同じではありません。

Super 400はGibsonの18インチ・アーチトップとして生まれ、時代とともに構造や仕様を変えながら発展しました。

一方、D’Angelicoでは、基本的に17インチのExcelに対し、New Yorkerは18インチの大型モデルとして区分されていました。ただし、今回確認した資料が示すように、D’Angelicoのモデル名や寸法は、すべてが厳密に固定されていたわけではありません。

Tom Van Hoose氏は、その二本をよく知っていました。そして1993年、Robert Benedetto氏に18インチのノンカッタウェイを注文します。

実物のラベルでは、このギターはManhattanです。実物のログブックにも、まずManhattan Customと記されています。

その一方で、同じ記録の脇には鉛筆で、

Americana Prototype

と書き加えられています。

さらに『Making an Archtop Guitar』のカラーページでは、このギターはAMERICANAとして紹介されました。活字化されたログブックにも、Americana model prototypeと記されています。

したがって、Americanaは、実物のログブックに残された鉛筆書きだけの仮称で終わったわけではありません。

少なくとも『Making an Archtop Guitar』をまとめる段階で、Benedetto氏は#30393をAmericanaのプロトタイプとして位置づけていました。

受け継がれた名前

異なる時代、異なる役割

「Americana」という名前は、その後もBenedettoの中に残りました。

Savannah時代に登場したAmericanaは、17インチのボディにヴェネチアン・カッタウェイを備え、ピックアップを搭載したエレクトリック・アーチトップです。

ブレイシングも、#30393のXブレイスではなくパラレル・ブレイスでした。

SavannahのAmericanaは、当時のラインナップにおける実用的な17インチ・エレクトリック・アーチトップとして企画されたモデルです。

https://www.benedettoguitars.com

 

  • #30393:18インチ/ノンカッタウェイ/Xブレイス/ピックアップなし
  • Savannah Americana:17インチ/ヴェネチアン・カッタウェイ/パラレル・ブレイス/ピックアップ搭載

以前の私は、この違いに強い違和感を覚えていました。

1993年のノンカッタウェイから具体的な仕様を受け継いだわけでもないモデルへ、なぜ同じ名前が使われたのか。

ラインナップの空白を埋めるために作られたギターへ、過去の名前だけを当てはめたようにも見えたのです。

特にノンカッタウェイのアーチトップを好む私には、1993年の一本から、カッタウェイとピックアップを備えたモデルへの変化は、かなり大きなものに感じられました。

ただ、今回あらためて資料を見直すと、#30393はManhattan Customとして製作されたギターでありながら、『Making an Archtop Guitar』では、Benedetto氏自身がAmericanaのプロトタイプとして位置づけています。

そう考えると、Savannah Americanaを#30393の量産型や、直接的な後継モデルとして捉えること自体に無理があったのかもしれません。

受け継がれたのは、18インチやノンカッタウェイといった具体的な設計ではなく、「Americana」という名前が喚起するイメージだった可能性があります。

あるいは、単に名前だけが再利用されたのかもしれません。そこは分かりません。

Benedettoは、モデル名に必ずしも具体的な仕様をそのまま表す言葉を使っていたわけではありません。

Manhattan、Cremona、La Venezia、Renaissance、Il Fiorentino、Il Palissandro。そしてAmericana。

地名、時代、素材、文化的なイメージ。そこには、仕様表とは別のところでギターの印象を捉えようとする命名感覚があります。

Americanaもまた、18インチやXブレイスを定義する設計名ではなく、そのギターへ託されたイメージの名前だったのかもしれません。

https://www.benedettoguitars.com

 

そして2023年、同じ名前は再び別の形で現れました。

Benedetto Guitarsは、モダン・アーチトップ・ギター誕生100周年へのオマージュとして、3本のCentennial Americanaを製作しました。

メーカーの紹介によれば、このモデルは1923年のモダン・アーチトップ誕生100周年を記念した企画であり、ヴァイオリン・スタイルのテールピースや細長いフィンガーレストなども、その歴史へのオマージュとして採用された意匠です。

Centennial Americanaも、#30393を復刻したモデルではありません。

メーカー自身も、このモデルを1993年のAmericana Prototypeの再現とは説明していません。あくまでも、モダン・アーチトップ100周年を記念した企画です。

そう考えると、2023年に受け継がれたのは#30393の具体的な設計ではなく、「Americana」という名前そのものだったと考える方が自然でしょう。

1993年には、Manhattan Customから生まれたプロトタイプの名称。

Savannah時代には、実用的なエレクトリック・アーチトップの商品名。

2023年には、アーチトップの歴史を振り返る記念モデルの名称。

同じ名前は受け継がれましたが、その役割は時代ごとに変化していました。

三つのAmericanaを並べてみても、#30393がなぜその名で呼ばれたのかは分かりません。

ただ後年、そのものズバリ、#30393が市場へ姿を現します。

実在したんだ

本の中で見てきた#30393が、ある日市場へ姿を現しました。

『Making an Archtop Guitar』のカラーページで見慣れた、あのギターです。

しかも出品写真には、本では見ることのできなかった側面やバック、ヘッドストック、ボディ厚、そしてfホール奥のラベルまで写っているではありませんか。

長く一枚の写真として記憶していたギターが、初めて立体として現れたのです。

実在したんだ。

もちろん、書籍に掲載されている以上、存在は知っていました。

それでも、一枚の写真だったギターが現在の姿で市場へ現れたことは、それまでとは全く違う実感を伴いました。

しかも価格は、プロトタイプとしてではなく、単純にManhattanとしての相場を思わせるものでした。

出品時の#30393には、製作当初にはなかったフローティング・ピックアップが取り付けられ、出力ジャックも増設されていました。
ログブックには「No pickup」とあるため、後年のどこかでエレクトリック化されたのでしょう。

そして、fホールの奥に見えるラベルには、次のように記されていました。

Model: Manhattan
No.30393
For my friend Tom Van Hoose

そこにも「Americana」の文字はありません。

本ではAMERICANA。現物のラベルではManhattan。

それまで一枚の正面写真からしか知ることのできなかったギターが、別の角度を見せるとともに、二つの名前を持つ一本であることを、改めて目の前に示したのです。

鉛筆の一行

#30393は、現物のラベルではManhattanです。

実物のログブックにも、まずManhattan Customと記されています。

その一方で、製作記録の脇には、鉛筆で

Americana Prototype

という二語が書き加えられています。

さらに『Making an Archtop Guitar』ではAMERICANAとして紹介され、活字化されたログブックにはAmericana model prototypeと残されました。

この一本には、ManhattanとAmericanaという二つの名前があります。

その理由は、今も分かりません。

しかし、この小さな鉛筆書きがあったからこそ、一人の注文主のために製作された18インチのManhattanは、一台のギターを超え、アメリカン・アーチトップそのものを考えるきっかけになりました。

 

Robert Benedetto氏のログブックには、今もあの鉛筆書きが残っているはずです。

(Americana Prototype)

 

引用・参考資料

本稿の執筆にあたり、以下の書籍、製作記録、ウェブページ、および筆者所蔵資料を参照しました。

主要参考文献

  1. Robert Benedetto
    Making an Archtop Guitar
    Hal Leonard Corporation, 1994.
    #30393を「AMERICANA」として紹介したカラーページ、活字化されたログブックの「Americana model prototype」という記載、D’Angelicoの修理経験とセンター・ジョイント補強に関する記述を参照しました。あわせて、建築用パイン材などを用いた#29293、およびIl Fiorentinoの掲載ページも参照しています。
  2. Thomas A. Van Hoose
    The Gibson Super 400: Art of the Fine Guitar
    GPI Books, First Paperback Edition, January 1995.
    Super 400の歴史と仕様の変遷、Super 400とD’Angelico New Yorkerの比較、および「Competitors of the Super 400」の章を参照しました。同章では、18インチのBenedetto SupremeがSuper 400に比肩しうる存在として紹介されています。
  3. Paul William Schmidt
    Acquired of the Angels: The Lives and Works of Master Guitar Makers John D’Angelico and James L. D’Aquisto
    Second Edition, 1998.
    D’Angelicoにおけるモデル名と個々の仕様の関係、注文者の用途や希望に応じた設計変更、顧客の依頼に応える職人としての姿勢、およびブレイシングに関する記述を参照しました。
  4. Frank W. M. Green
    John D’Angelico: Master Guitar Builder: What’s in a Name?
    Centerstream Publishing, 2008.
    Robert Benedetto氏による前書き(p.5)、およびD’Angelicoのギターを実際に修理し、内部構造を観察した経験についての記述(pp.52–54)を参照しました。

製作記録・個体資料

  • Robert Benedetto オリジナル・ログブック、Serial #30393
    「Manhattan Custom」と記録された欄の脇に、鉛筆で「Americana Prototype」と書き添えられていることを確認しました。
  • 活字版Benedettoログブック、Serial #30393
    Manhattan Customの仕様に加え、「Americana model prototype」と記載されていることを確認しました。
  • Reverb掲載時のSerial #30393に関する保存資料
    後年の外観、追加されたフローティング・ピックアップ、出力ジャック、およびfホール内のラベル表記を確認するために参照しました。なお、Reverb掲載画像は本稿には使用していません。
  • Reverb掲載時のSerial #29293に関する保存資料
    Making an Archtop Guitar』掲載後の姿を確認するために参照しました。こちらもReverb掲載画像は本稿には使用していません。
  • 筆者所蔵の書籍、カタログ、写真資料
    各モデルの仕様、掲載時期、外観、および資料間の記載を照合するために参照しました。

参考ウェブページ

  • Ken Parker

    Etude: Arched Plates: Bracing the Top

    初期Super 400のXブレイス、1940年頃のrail bracesへの移行、およびTom Van Hoose氏所蔵の1939年製Super 400N内部写真に関する記述を参照しました。
  • Benedetto Guitars

    Centennial Americana 1 of 3

    Centennial Americanaの仕様、外観、および公式の商品情報を参照しました。
  • Benedetto Guitars

    TWINS!

    Centennial Americanaが、モダン・アーチトップ・ギター誕生100周年へのオマージュとして製作された企画であることを確認しました。

掲載画像について

本稿に掲載した書籍ページの画像は、筆者所蔵書籍を撮影したものです。各画像は、本文で扱うギターや記録を示すため、資料の紹介、比較、批評および考察に必要な範囲で掲載しています。

Benedetto Guitars公式サイトから参照した画像および情報については、画像付近または本文中に掲載元へのリンクを設けています。

オリジナル・ログブックの画像は、筆者所蔵資料を撮影したものです。なお、Reverb出品時の画像は個体確認の資料として参照しましたが、本稿には掲載していません。

書籍、公式サイト、その他の資料に由来する画像および文章の著作権は、それぞれの著作権者に帰属します。


※本稿は、公開資料および筆者所蔵資料をもとに執筆しています。Robert Benedetto氏本人への取材は行っておらず、製作意図については確認できる資料の範囲で考察したものです。推測を含む箇所については、その旨を本文中に明記しています。

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