90年代Benedettoについて調べていると、どうしても外観から受ける印象に引っ張られます。
ManhattanやCremonaは、いかにもBenedettoらしい現代的なアーチトップ。対してFratelloやLimeliteは、トラディショナルなピックガードの形もあって、より古典的な方向のモデル。さらにLa Veneziaは、装飾を削ぎ落としたアコースティック・アーチトップの極み。
なんとなく、そんなふうに見ていました。
そしてその印象から、FratelloやLimeliteはパラレル・ブレイスが比較的多いのではないか、と考えていたのです。
ところが、ログブックを追ってみると、その印象は少し揺らぎました。
今回確認したのは、1991年8月以降から1999年末までの記録です。理由は単純で、この時期からログブック上にブレーシングパターンの記載が現れ始めるからです。
ただし、今回の記事は「BenedettoはXブレイスが多かった」と大げさに騒ぐためのものではありません。
フローティング・ピックアップ仕様、あるいはトップのアコースティックな反応を重視するアーチトップにおいて、Xブレイスは重要な選択肢の一つだったのではないかと思います。
実際、私の手元にある辻四郎 GEM-Bも、Heritage Sweet 16もXブレイスです。さらに、1947年製のD'Angelico New YorkerもXブレイスでした。
もちろん、この数本だけで何かを断定することはできません。ただ、トップにピックアップを埋め込まず、アコースティックな反応を活かそうとするアーチトップにおいて、Xブレイスが特別に珍しいものではなかったことを考える手がかりにはなります。
一方で、フローティング・ピックアップ仕様、あるいはピックアップなしのアーチトップが、すべてXブレイスだったわけでもありません。たとえばGibson L-5Cのように、パラレル・ブレイス系として語られるモデルもあります。
そう考えると、BenedettoにXブレイスが多いことは、単なるフローティング・ピックアップ仕様の当然の帰結として片づけるべきではないのかもしれません。
今回見たいのは、90年代Benedettoのログブックにおいて、Xブレイスがどのモデルで、どの程度一貫して記録されているのか。そして、その中に少数現れるパラレル・ブレイスをどう読むのか、ということです。
目次
「調査範囲について」
今回の調査対象は、1991年8月以降から1999年末までのBenedettoログブックです。
この時期を選んだのは、ログブック上にブレーシングパターンの記載が出始めるのが、概ね1991年8月以降だからです。
対象としたモデルは、Cremona、Limelite、La Venezia、Fratello、Manhattanの5モデル。
あくまでログブックに記載が確認できる範囲での集計ですが、90年代Benedettoの内部構造を考える上では、かなり興味深い結果になりました。
なお、今回の調査はBenedetto全体のブレーシング史を断定するものではありません。
ただし、参考としてごく初期、1970年代初頭からの十数本についても確認したところ、その多くがXブレイスでした。この点を踏まえると、90年代のログブックで見えてくるXブレイスの多さは、90年代に突然現れた傾向というより、かなり初期から続いていた基本線として捉えられる可能性があります。
もちろん、十数本だけで初期Benedetto全体を語ることはできません。70年代から80年代にかけてのSupremeやCremonaなど、より多くの初期モデルのブレーシングパターンが確認できれば、また違った景色が見えてくる可能性もあります。
「Benedetto自身のブレーシング観」
ログブックの数字を見る前に、Benedetto自身がブレーシングについてどう考えていたのかを確認しておきたいと思います。
Robert Benedettoは著書『Making an Archtop Guitar』の中で、ブレーシングには二つの役割があると説明しています。
一つは、弦の振動をトップ板へ伝え、分散させること。もう一つは、ブリッジから加わる下向きの圧力にトップ板が耐えるための構造材としての役割です。
さらに彼は、アーチトップギターにおける代表的なブレーシングとして、パラレル・ブレイスとXブレイスを挙げています。そしてこの二つは、音響面でも構造面でも異なるものだとしています。
パラレル・ブレイスは、弦の縦方向の張力に対してトップ板が歪みにくく、そのぶんトップをより均一に薄く削りやすい。一方、Xブレイスのトップは縦方向の張力に対してやや弱く、中央部やネックブロック周辺を少し厚めに残す必要がある、と説明しています。
そして一般論として、薄く削られたトップにパラレル・ブレイスを組み合わせると、より大きな音量と強い投射力が得られる、とも述べています。
つまりBenedettoは、パラレル・ブレイスの構造的、音響的な利点を十分に理解していました。
その上で、90年代の主要モデルではXブレイスがかなり多い。ここに、Benedettoのブレーシングを考える上での面白さがあります。
「ログブック上の集計結果」
まず、モデル別の集計結果は以下の通りです。
| モデル | 総数 | Xブレイス | パラレル | その他 | 不明 |
|---|---|---|---|---|---|
| Cremona | 15 | 13 | 1 | 1 | 0 |
| Limelite | 12 | 9 | 3 | 0 | 0 |
| La Venezia | 23 | 22 | 0 | 1 | 0 |
| Fratello | 22 | 13 | 9 | 0 | 0 |
| Manhattan | 63 | 50 | 10 | 2 | 1 |

全体として、Xブレイスがかなり多いことが分かります。
La Veneziaは23本中22本、Cremonaは15本中13本、Manhattanは63本中50本がXブレイスでした。Limeliteも12本中9本がXブレイスで、Fratelloだけが比較的パラレルの比率を残しています。

ただし、この数字をそのまま「モデルごとの固定仕様」として読むのは少し危ういと思います。
Benedettoの多くは、楽器店からの大量発注による既製モデルというより、個別の注文に応じて作られたカスタムメイドだったと思われるからです。
「ログブックと仕様書のあいだ」
カスタムメイドだからといって、注文者がすべての仕様を細かく選んでいたとは限りません。
私自身の経験で言えば、Benedetto 16 Customの仕様書にはブレーシングパターンの記載はありませんでした。また、オーダー時にブレーシングについて尋ねられた記憶もありません。
ただし、この一例を一般化しすぎるのは危険です。
私の16 Customはサウンドホール自体が特殊なデザインでした。そのため、通常のBenedettoオーダーと同じ条件でブレーシングを選べたのかどうかは分かりません。
一方で、ネック幅や握りについては、こちらから希望を伝えれば反映されました。私は1 13/16インチというやや広めのナット幅と、50年代Gibsonスタイルの握りが好みだったため、BenedettoでもBuscarinoでも、その方向でお願いしています。計3回、その握りにしてもらいました。
つまり、私の経験から言えるのは、希望を明確に伝えた部分は仕様として反映された一方で、ブレーシングについては少なくとも私の仕様書上には現れていない、ということです。
しかし、ここで面白いのはログブックの方です。
1991年8月以降のログブックでは、ブレーシングの種類がどのモデルについても、ほぼ必ずと言っていいほど記されています。
もしXブレイスが単なる当たり前の標準仕様で、記録する意味の薄いものだったなら、X以外のパターンだけを書けば済んだはずです。
しかし実際には、Xであっても、パラレルであっても、その他であっても、一本ごとにブレーシングが記されています。
ブレーシングは、注文者向けの仕様書には必ずしも現れない場合がある一方で、製作側の記録としては、その一本の性格を示す重要な項目だったのではないでしょうか。
少なくともログブック上では、Xブレイスが大きく多数を占めています。そのことから、BenedettoにおいてXブレイスが標準的な基本線に近い位置にあった可能性はあります。
ただし、それを注文時の仕様書や私の一例だけから断定することはできません。
「フローティング・ピックアップとXブレイス」
フローティング・ピックアップ仕様、あるいはトップのアコースティックな反応を重視するアーチトップにおいて、Xブレイスは重要な選択肢の一つだったのではないかと思います。
トップにピックアップを埋め込まない場合、トップ板の振動をより素直に活かすことができます。その設計思想とXブレイスは、相性が良かったのでしょう。
私の手元にある辻四郎 GEM-Bも、Heritage Sweet 16もXブレイスです。さらに、1947年製のD'Angelico New YorkerもXブレイスでした。
もちろん、この数本だけで何かを断定することはできません。ただ、トップのアコースティックな反応を重視するアーチトップにおいて、Xブレイスが特別に珍しいものではなかったことを考える手がかりにはなります。
一方で、フローティング・ピックアップ仕様、あるいはピックアップなしのアーチトップが、すべてXブレイスだったわけではありません。Gibson L-5Cのように、パラレル・ブレイス系として語られるモデルもあります。
そう考えると、BenedettoにXブレイスが多いことは、単なるフローティング・ピックアップ仕様の当然の帰結として片づけるべきではないのかもしれません。
なお、アーチトップにおけるXブレイスの系譜を考える上では、Johnny SmithやD'Angelicoの存在も避けて通れません。特にJohnny Smithが愛用したD'Angelicoと、後のGibson Johnny Smithに見られるフローティング・ピックアップ、25インチスケール、浅めの胴厚、Xブレイスという要素は、Benedettoを考える上でも気になる補助線です。
現代の個人製作家によるXブレイスをすべてD'Angelicoに由来するものとして語ることはできませんが、D'Angelicoがインディペンデント系アーチトップ製作の大きな基準点であったことを考えると、この流れは別に追うべき大きなテーマです。
今回は、あくまで90年代Benedettoのログブックに記録されたブレーシング傾向に話を絞ります。
この前提を置くと、Benedettoのログブックに現れるXブレイスの分布と、そこから外れる少数のパラレル・ブレイスの意味が、より見えやすくなります。
「外観から受けていた印象」
もともと私は、モデル構成をかなり単純に捉えていました。
Manhattanは現代的なBenedettoの中心モデル。その上位にCremonaがある。一方でFratelloは、よりトラディショナルな外観を持つモデル。そしてその上位にLimeliteがある。さらにLa Veneziaは、装飾を省いたアコースティック・アーチトップの極み。
そう考えると、FratelloやLimeliteにはパラレル・ブレイスが多いのではないか、と思いたくなります。
しかし実際には、FratelloでさえXブレイスが上回り、Limeliteはかなり明確にXブレイス寄りでした。
つまり、外観だけでモデルを分類していたこちらの見方が、少し表面的だったのだと思います。
「Xブレイスの位置づけ」
Benedettoのアーチトップは、基本的にフローティング・ピックアップを前提とし、スケールは25インチです。
この25インチというスケール、そしてフローティング・ピックアップ、扱いやすい胴厚、Xブレイスという組み合わせを考えると、Gibson Johnny Smithの存在が自然に浮かびます。
Johnny Smithは、L-5やSuper 400のようなパラレル・ブレイスの系譜とは少し違う位置にあるモデルです。25インチスケール、やや浅めの胴厚、フローティング・ピックアップ、そしてXブレイス。アコースティックな鳴りを保ちながら、ジャズギターとしての扱いやすさも求めた設計だったと言えるでしょう。
もちろん、Benedettoを単純にJohnny Smithの後継として片づけるつもりはありません。
ただ、パラレル・ブレイスの利点を理解した上でXブレイスを多く用いていたように見える点は、Benedettoのアーチトップ観を考える上で見逃せません。
それは、最大音量や投射力だけを求めた選択ではなく、フローティング・ピックアップ、25インチスケール、胴厚、そしてアコースティックな反応を含めた、彼なりのアーチトップ観に基づく選択だったのかもしれません。
「モデルごとの傾向」
Manhattan
Manhattanは63本中50本がXブレイス。90年代Benedettoの中核的なモデルとして、かなりXブレイス寄りです。
Manhattanを現代的なBenedettoの中心モデルと見るなら、この結果はそれほど不自然ではありません。むしろ興味深いのは、この傾向が他のモデルにも広く及んでいるように見える点です。
Cremona
Cremonaは15本中13本がXブレイス。
Manhattanの上位モデル、あるいはより完成度を高めたモデルとして見た場合でも、パラレルへ戻るのではなく、Xブレイスを強く維持していることが分かります。
ただし、Cremonaというモデルは90年代に突然現れたものではありません。もっと以前のCremonaのブレーシングが分かれば、この見方はさらに深まるはずです。
Fratello
Fratelloは22本中13本がXブレイス、9本がパラレル。今回の集計の中では、もっともパラレルの比率が高いモデルです。
ただし、それでもXブレイスが上回っています。この結果を見る限り、Fratelloは「パラレルのモデル」というより、「Xを基本としつつ、パラレルも比較的多く存在するモデル」と見た方がよいでしょう。
Limelite
Limeliteは12本中9本がXブレイス。
Fratelloの上位にある、よりトラディショナルな方向のモデルと考えていた身としては、なかなか興味深い結果でした。
外観の印象からはパラレルが多そうに見える。しかし実際には、かなり明確にXブレイス寄りです。
La Venezia
La Veneziaは23本中22本がXブレイス。
これは非常に強い結果です。
La Veneziaは、装飾を削ぎ落としたアコースティック・アーチトップの極みのようなモデルです。ただし、この結果を見る限り、それはパラレル・ブレイスによる古典的なアーチトップへの回帰ではありません。
むしろ、Xブレイスを前提とした、Benedetto流のアコースティック・アーチトップの極みだったのではないか。
装飾を省いたからこそ、内部構造まで古典的になるわけではない。La Veneziaは、Benedettoの基本線がもっとも余計な装飾を省いたかたちで表れているモデルだったのかもしれません。
「時間軸で見たブレーシング」
もう一つ、集計しながら気になったことがあります。
1991年8月以降、ログブックにブレーシングパターンが記載され始めた初期には、パラレル・ブレイスもちらほら確認できます。ところが、1992年後半を過ぎたあたりから、記録はほとんどXブレイス一色になっていきます。そして90年代の終盤、1998年頃になると、再び一、二本ほどパラレル・ブレイスが現れる。
この流れだけを見ると、90年代前半にXブレイスへ収束していったようにも見えます。
その上で、90年代終盤に少数現れるパラレル・ブレイスは、モデルの基本仕様というより、個別のオーダーや求められた鳴り方に応じた例外だった可能性があります。
著書で語られるパラレル・ブレイスの利点を踏まえると、こうした少数のパラレル個体はなおさら気になります。
「少数のパラレル・ブレイスをどう見るか」
ログブック上では、Xブレイスが大きく多数を占めています。
その中で現れる少数のパラレル・ブレイスには、個別の注文や、求められた鳴り方の違いが表れていた可能性があります。
少なくとも今回の範囲では、Xブレイスが基本線に近い位置にあり、パラレル・ブレイスはそこから外れる意図的な選択だった可能性があります。
ただし、その基本であるXも、ログブックには一本ごとに記録されるほど重要な仕様でした。
そう考えると、90年代Benedettoのログブックは、Benedettoの標準的なアーチトップ観と、その周囲に存在した個別のこだわりの両方を映しているように見えてきます。
「Guild Artist Awardへ続く線」
ここまで見てきたXブレイスの傾向は、Gibson Johnny SmithやGuild Artist Awardの存在ともどこかでつながってきます。
Johnny Smithの名を冠したギターは、Guild、Gibson、Heritage、そしてBenedettoが関わったGuild期へと受け継がれていきます。
ただし、Guild Artist AwardやGuild Johnny Smith Award by Benedettoの仕様は、時期や製作体制によって変化しており、単純に一つの仕様で語れるものではありません。
90年代Benedettoのログブックに現れるXブレイスの多さ。そしてその後に現れるGuild Benedetto期のArtist Award、Johnny Smith Award。
この線は、もう少し丁寧に追ってみる必要がありそうです。
